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キャスト・スタッフ
「英国総督 最後の家」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「英国総督 最後の家」は2018年の8月11日に劇場公開されている、グリンダ・チャーダ監督による歴史スペクタクルです。
ドミニク・ラピエールとラリー・コリンズによって1975年に共同執筆されたノンフィクション書籍、「Freedom at Midnight」をもとにして映像化されました。
フットサルに青春をかける女の子たちがキュートな「ベッカムに恋して」や、容姿のコンプレックスを乗り越えて成長していく14歳を主人公にした「ジョージアの日記」等。
数多くの青春ストーリーを手掛けてきた1960年生まれでナイロビ出身の映画作家が、初となる歴史ものにチャレンジしています。
インドと政治的な緊張関係にある隣国のパキスタンでは、上映禁止処分を受けてしまった曰く付きの作品です。
独立前夜のインドを舞台にして、列強諸国の思惑と時代の流れに翻弄されていく人たちのドラマに迫っていきます。
あらすじ
第二次世界大戦の終結間もない1947年、インドは300年にも渡ったイギリスの支配下から解放されようとしていました。
新しく総督に任命されたのは、先祖代々続いてきた貴族の家柄に生まれたルイス・マウントバッテンです。
マウントバッテン卿は妻のエドウィナと娘のパメラを伴って現地入りし、首都・デリーの総督官邸で歓迎を受けます。
任期期間は6カ月でこの間にマウントバッテンは、宗主国のイギリスからインドへの主権譲渡が滞りなく行われるよう見届けなければなりません。
人種・宗教の壁を越えて独立を成し遂げたい国民会議派、ムスリムだけの分離独立を密かに画策するジンナー派。
それぞれの派閥の思惑が複雑に交錯していく中で、マウントバッテン自身も重大な選択を迫られることになるのでした。
歴史の表と裏の舞台に立つ俳優たち
インド最後の英国総督を務めた歴史上の人物に、ヒュー・ボネヴィルが迫真の演技力でアプローチをしていきます。
ルイス・マウントバッテンの表舞台での活躍に加えて、知られていない素顔や家族とのプライベートな一面も巧みに体現していました。
ルイスの妻・エドウィナの役に扮しているのは、海外ドラマ「Xーファイル」でお馴染みのジリアン・アンダーソンです。
どうしてもFBI捜査官のダナ・スカリーを連想してしまいますが、今作では華麗なアクションを封印して良妻賢母といった役回りに落ち着いていました。
異教徒への一途な気持ちを貫くもうひとりの主役ジート・クマールを、マニッシュ・ダヤルが熱演していきます。
ラッセ・ハルストレム監督作「マダム・マロリーと魔法のスパイス」では、天才的なシェフ役で一躍脚光を浴びました。
「インドの山田孝之」の異名を持つだけあって、彫りの深い顔立ちはよく見てみれば似ているような気もしませんか?
先送りにされてきた数々の課題
今の時代にまで残されている、インドとパキスタンとの間に横たわっている歴史的な負の遺産にスポットライトが当てられていきます。
欧米寄りのヒンズー教徒たちはアメリカの力を得てインドとして、中東寄りのイスラム教徒はソ連のバックアップを取り付けてパキスタンとして。
ようやく独立した途端に米ソの覇権争いに巻き込まれてしまうのは、新興国に課せられた宿命なのかもしれません。
ふたつの超大国によって強引に引かれた国境線が、21世紀の現在にまで深く刻まれている傷あとのようでした。
独立前と独立後の激動の狭間に埋もれてれてしまっていた事実も、綿密なリサーチによって浮かび上がっていきます。
イギリスがソ連との間で交わしていた港湾都市・カラチに関する密約など、二枚舌外交への憤りが涌いてくるはずです。
広大な宮殿で新時代の幕開けを見る
130ヘクタールにも及ぶ広大な敷地内に建てられた、総督官邸のきらびやかな外観や内部には目を奪われるはずです。
来客をもてなすための部屋が30以上、食堂だけで10部屋、その他にも大部屋が設置されていて迷路のように入り組んでいます。
500人を越える多種多様な使用人たちが慌ただしく働いている、このお屋敷そのものがひとつのインド社会を形成していました。
5つのヴァルナと約2000のカーストによって厳格に区分けされている身分制度は、植民地の頃から変わることはありません。
その一方では邸宅の2階フロアに集まった政治家や学者を志す若者たちの活発な議論からは、旧世代の常識を打ち壊すようなエネルギーがあります。
総督ファミリーと彼らに仕えた大勢の使用人が正装をして、カメラの前に立って記念撮影に臨むシーンは必見です。
1枚の写真からは栄華を誇った大英帝国の終わりと共に、新たなる時代の幕開けを感じることが出来るでしょう。
自由のために戦う総督
長きに渡った外国からの不条理な抑圧から解き放たれる寸前の、世界都市・デリーの胎動が伝わってきました。
統一独立派と分離独立派の間に少しずつ広がっていく距離感が、デリーの街全体を暗雲のように覆っています。
母国イギリスから任された重責を感じながらも、インド国民の幸せを真摯に願っているのがルイス・マウントバッテンです。
総督という雲の上のような存在でありながら、官邸職員から現地の人々まで分け隔てないフレンドリーな触れ合いには好感が持てました。
円滑な主権の譲渡を願うマウントバッテンの想いとは裏腹に、官邸内部は不穏な動きで慌ただしくなっていきます。
壁を撃ち破るために
同じインド国民でありながら宗教的な価値観や民族的な背景の違いから、対立を深めていく人々の苦悩を感じました。
インド人の青年ジート・クマールと、イスラム教徒の秘書・アーリアとのロマンスまで盛り込まれていて楽しめます。
単なるメロドラマで終わることなく、周囲の人たちからの無理解や偏見を乗り越えていく過程が描かれていて感動的です。
ふたりの年若い男女が貫き通した何処までもピュアな関係と、その予想外の結末にはホロリとさせられました。
独立はしたけれども
祖国のために尽くしてきたはずのマウントバッテンが、傀儡でしかなかったことが明かされていく終盤が衝撃的でした。
信じてたはずのイギリスからは裏切られて、インドもパキスタンも権力者たちは自国の利益ばかりを主張して。
一度は自暴自棄になっていたマウントバッテンが再び総督としての役割を全う出来たのは、最後まで自分についてきてくれた仲間たちのお陰です。
本国へ帰って自らの社会的な地位と家族の幸せだけを守り抜く、遠い異国の地に骨を埋める覚悟を決めるのか。
思い悩んだ末にマウントバッテンが下した決断と、クライマックスに待ち受けている思わぬ人物との再会に胸を打たれます。
こんな人におすすめ
賑やかな歌と派手な躍りのイメージが強いインド映画ですが、本作品のようなシリアスな歴史ドラマも一見の価値があります。
マハトマ・ガンディーのようなカリスマ性あふれる英雄や、チャンドラ・ボースような不世出の革命家は登場しません。
ごく普通の人たちが悩み苦しみながらも、歴史の荒波に立ち向かって精一杯生きていくひた向きさに励まされました。
スタッフロールが流れる直前に紹介される、チャーダ監督と本作のモデルとなったインド人夫婦との逸話も良かったです。
インドに関する歴史ドキュメントに造詣が深い皆さんや大河小説の愛読者は、是非ともこの映画をご覧になってください。
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