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キャスト・スタッフ
「僕たちは希望という名の列車に乗った」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「僕たちは希望という名の列車に乗った」はラース・クラウメ監督によって、2019年の5月17日に劇場公開されています。
ディートリッヒ・ガルスカによって2007年刊行されているノンフィクション書籍、「Das schweigende Klassenzimmer」を映像化したものです。
本国ドイツのベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映されて後に、日本でもアルバトロス・フィルムとクロックワース社の共同配給によって全国ロードショーされました。
平和と自由を何よりも愛する高校生たちが全てを投げ捨てて国境を越えた、実話に基づいた青春ストーリーです。
あらすじ
製鉄所に勤務する父親のへルマン・レムケに育てられたテオは、弟たちの面倒を見ながら勉強を続けていました。
東ドイツの中でも屈指のエリート校へと進学したテオは、東欧諸国で起きていた弾圧事件について詳しく知ります。
特に仲の良かったクルト・ヴェヒターとふたりで、クラスメートたちに呼び掛けたのは授業が始まる前の2分間の黙祷です。
学校側は国家に対する政治的な抗議活動だと大騒ぎになり、首謀者を見つけ出すための調査を密かに開始します。
恥も外聞もなく密告者に成り下がって約束されたキャリアを手に入れるのか、自分たちが決めた苦難の道のりを何処までも歩んでいくのか。
国から派遣されてきた調査官の前で、テオたちは将来に関する究極的な二者択一を迫られることになるのでした。
極限状況下の青春劇に出演
クラスの中でも皆のまとめ役でもあり心優しき青年、テオ・レムケの役を演じているのはレオナルド・シャイファーです。
テオの親友にして正義感あふれる同志でもある、クルト・ヴェヒターの役にはトム・グラメンツが扮していました。
クルトに対して同期生以上の想いを寄せているヒロインのレナ役を務めているのは、レナ・クレンクという女優さんです。
今作のためにオーディションによって大抜擢された新人俳優たちの熱演に、旧東ドイツ出身のベテラン勢も負けていません。
テオの父へルマン・レムケ役のロナルド・ツェアフェルトは、旧世代と新しく台頭してきた者たちとの間で苦悩する姿を体現しています。
「東ベルリンから来た女」や「ナチスがもっとも畏れた男」に代表されるような、政治ドラマには欠かせない名優ですね。
「グッバイ!レーニン」でベルリンの壁崩壊のフェイクニュースを製作する映画マニア役を怪演していたフロリアン・ルーカスが、ことなかれ主義の校長先生にキャスティングされているのも面白いです。
壁のないベルリン
市内を分断する壁が建設される5年ほど前の東ベルリン市内の風景が、光と影を強調したタッチから映し出されていました。
テオとクルトの行き付けの映画館は西ベルリンにありますが、当時は東からでも電車に乗って通うことが出来ます。
車内では小うるさい検札官に因縁を付けられてしまう一幕もありましたが、「戦死した祖父のお墓参りに行く」と言えば向こうも引き下がるしかありません。
映画鑑賞の後にはカフェに立ち寄って淹れ立てのコーヒーでほっとひと息つき、ショーケースに並んだスイーツも美味しそうです。
第2次世界大戦終結から10年以上の時が流れていますが、街角や路地裏にはそこかしこに戦争の爪痕が残されています。
西ベルリンにはGIジープに乗って走り回るアメリカ兵が、東ベルリンにはカラシニコフ銃を物々しく掲げたソ連兵が。
つかの間の青春を謳歌する戦争を知らないテオたちにも、やがては過酷な運命が迫っていることが伝わってきます。
異国の怒りに耳を傾ける
何百万人というハンガリー市民の生命が一瞬にして奪われた、一斉蜂起に対する弾圧事件がストーリーの背景にあります。
一般家庭にはテレビも珍しいこの時代に、ごく平凡な高校生のテオがこのニュースを知ることが出来たのはラジオ放送のお陰です。
東ベルリンにいながらにして西ベルリンのラジオ局「RIAS」を聞くには、変わり者と評判のエドガーの協力を取り付けなければなりません。
唐突な訪問に高校生たちからの突拍子もないお願いに困惑するエドガーですが、彼らの好奇心旺盛さと知識欲に温かい眼差しを注いでいて微笑ましいです。
目の前にあるものだけで物事を判断するのではなく、見えない壁の向こうへと思いを巡らせていくテオの成長ぶりを見守って下さい。
決起する生徒に押さえ込む大人たち
1時間目が始まっても教室の中の誰ひとりとして言葉を発することのない、生徒たちによる無言の抵抗から物語は動き始めていきます。
たった2分間の高校生たちの黙祷が、如何にして国家権力を揺るがすほどの大問題へと発展していくのか引き込まれました。
学校内での問題解決には到底収まらないために、外からやって来たランゲの「国民教育大臣」なる肩書きが厳めしいです。
美しい容姿ながらも、冷血なサイボーグのごとく生徒たちのプロフィールを調べ上げていくケスラー調査官も油断なりません。
微妙に揺らいでいく心を再びひとつに纏める
一時的な盛り上がりが過ぎると生徒たちの結束力も弱まっていき、疑心暗鬼へと陥っていく様子にもリアリティーがあります。
思春期ならではのお互いへのライバル意識や、ひとつの目標に突き進んでいくはずが足を引っ張り合ってしまうのがほろ苦いです。
卒言葉巧みに卒業試験の中止や退学処分をちらつかせて、生徒たちの心理をコントロールする政府高官には憤りを感じます。
1度はバラバラになっていく仲間たちの絆を辛うじて繋ぎ止めた、テオの「皆で決めたことです」というセリフが良かったです。
過去の過ちが今へと繋がる
教師が高校生たちに拳銃を持たせて射撃訓練をさせる授業風景は、1950年代の社会主義体制下ではそれほど珍しくありません。
エリック・バビンスキーという悩み多き生徒と、やたらと高圧的な射撃教官の衝突から不吉なムードが高まっていきます。
かつてはナチス政権の支持者で戦後に処刑されたエリックの父親、戦時中にナチスから拷問を受けた反動から権力にしがみつくランゲ。
親世代のしがらみや未解決の課題が、その子供たちにまで引き継がれてれてしまうことについても考えさせられました。
全編を通して若者の行動に理解を示すことのなかったクルトの父が、終盤で微妙な心変わりをするシーンが印象深かったです。
西側へと消えていく息子を見送りながらも、自分自身は市議会議員として東に踏み止まらなければならない複雑な胸の内が伝わってきます。
こんな人におすすめ
西ベルリン行きの列車に乗り込んだメンバーたちの顔触れと、クライマックスで浮かべた意味深な笑みも忘れられません。
社会主義体制の中で息を潜めて押しつぶされていた少年少女たちが、力を合わせて立ち上がっていく姿には胸を打たれました。
何かにつけて醒めていて政治や歴史問題に無関心になりがちな、高校生の皆さんに是非ともご覧になって頂きたいです。
原作は大川珠季の翻訳によって「沈黙する教室」の邦題で、アルファベータブックスから2019年の5月21日に発行されています。
映画版では泣く泣くカットされているエピソードや、テオたちのその後も知ることが出来ますので読んでみて下さい。
みんなのレビュー
「僕たちは希望という名の列車に乗った」を
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