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キャスト・スタッフ
「レスラー」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「レスラー」は2008年にアメリカで、プロトゾア・ピクチャーズとサターン・フィルムによって合同製作されました。
第65回のヴェネチア国際映画祭でワールドプレミア上映された後に、日本でも日活の配給によって2009年の6月13日から劇場公開されています。
卓越した知能に恵まれた男が数式だけで世界の秘密を解き明かす「π」や、旧約聖書の創世記を大胆に解釈した「ノア 約束の船」など。
低予算モノクロムービーから歴史スペクタクルまでを手掛けている、ダーレン・アロノフスキー監督がメガホンを取っています。
第81回のアカデミー賞では主演男優賞と助演女優賞の2部門にノミネートされた他、フィルム・インディペンデントからも作品賞と撮影賞が贈られました。
とっくに全盛期を過ぎた孤独な中年のレスラーが、過去の栄光に捕らわれながらもがき続けていくヒューマンドラマです。
あらすじ
人気のレスラーとして活躍してきたランディ・ロビンソンのことを、デビューから20年以上たった現在では殆んどのファンは覚えていません。
週末ごとに細々と地方巡業を続けながら、空き時間にはパートタイマーとして働きながら生活費を稼ぐ日々です。
ある日の試合終了後に突如として胸の違和感を感じたランディが病院へと駆け込むと、心臓病の診断を下されてドクター・ストップがかかりました。
長年に渡ってステロイド剤を筋肉注射として乱用してきたツケが、今になって回ってきて現役引退を余儀なくされます。
アルバイト先のスーパーに頼み込んでフルタイム勤務を始めますが、リングへの未練を断ち切ることが出来ません。
プロレスラーとしてもひとりの人間としても、ランディは人生における重大なターニングポイントを迎えることになるのでした。
ドン底から這い上がっていく男を熱演
落ち目のプロレスラー「ザ・ラム」ことランディ・ロビンソンの生きざまを熱演していくのは、ミッキー・ロークです。
元ライトヘビー級のプロボクサーとして8戦6勝2引き分けの戦績を残しているだけに、劇中でのバトルは本格的でした。
スティーヴ・グッテンバーグとタッグを組んだ「ダイナー」では、ボルティモアの簡易食堂でお気楽な青春時代を謳歌する若者グループを。
エイドリアン・ライン監督作「ナインハーフ」では、マンハッタン在住のヒロインを翻弄していくプレイボーイを。
華々しいキャリアと美しい容姿で1980年代に脚光を浴びた俳優さんも、21世紀に入ってからはヒット作に恵まれず寄る年波には勝てません。
内面的な弱さと年齢からくる衰えをありのままにさらけ出した今作の名演技によって、見事にカムバックを果たしました。
ランディと仄かなロマンスを繰り広げるキャシディ役のマリサ・トメイや、娘役のエヴァン・レイチェル・ウッドといった女優陣が可憐に花を添えています。
血湧き肉踊るプロレス技の数々
鍛え抜かれた肉体をぶつけ合いリング上で繰り出される無数の必殺技が、格闘技マニアを唸らせるほどリアリティーを追及して再現されていました。
観客席から多くのファンが、自身の名前を冠した大技、「ラム・ジャム」が炸裂するのを今か今かと待ち望んでいます。
対戦レスラーの頭を両足を使って挟み込んだまま、脳天から豪快に地面に打ち付けるのがパイルドライバーです。
休日の朝にトレーラーハウスでゆっくりと休んでいると、地元の悪童たちに叩き起こされてしまうのはお約束ですね。
いちばんに体格のいい子供の首根っこを掴まえて、軽々と持ち上げてチョーク・スラムを決めると大歓声が沸き上がります。
1度は引退をはっきりと表明したはずのランディが、再びリングへと舞い戻ってくるクライマックスには胸が熱くなるはずです。
辛うじてロープの上でバランスを保っているレスラーの、最後の力を振り絞ったダイブを見届けてあげて下さい。
肉弾バトルを盛り上げるテーマソング
ロサンゼルスで結成されたクワイエット・ライオットが熱唱する「Bang Your Head metal heath」が、オープニングから景気よく鳴り響いていました。
へヴィメタル・バンドとして1980年代を一世風靡した4人組が、プロレス・ブームの波に乗っかっていた当時のランディと重なります。
試合が終わって帰りの車内のカーラジオから流れているのは、シンデレラの「Don’t know What You Got Till Its Gone」です。
失ってしまった大切な人を嘆くバラード曲で、対向車のヘッドライトに照らされたランディ人形が寂しげに揺れていました。
エンドロールと共に流れるのは、ミッキー・ロークの盟友ブルース・スプリングスティーンが熱唱する「ザ・レスラー」です。
1970年代前半から走り続けてきた孤高のミュージシャンの歌声が、年老いたレスラーの物語を静かに力強く締めくくります。
「この安息の地には留まれない」というフレーズの中に込められている、深いメッセージを噛み締めてください。
往年のスターの輝きは無し
一戦を終えた後の控え室で背中を丸めて咳き込んでいる、主人公ランディ・ロビンソンのバックショットから幕を開けていきます。
全身に生々しい傷あとが残り至るところにテーピングされた身体には、明らかに肉体的な限界がせまっていました。
取っ払いの出演料を年若いプロモーターから受け取る際に、お客さんの入りが悪いことをチクリと嫌みを言われてしまうのがほろ苦いです。
サイン会を始めとする本来であればお断りしたい仕事も、選り好みしている余裕もなく引き受けるしかありません。
疲れ果てて帰宅すると家賃の不払いが貯まっていて閉め出されてしまい、踏んだり蹴ったりの毎日が不甲斐ないです。
戦士はバイト中
嫌々ながらも近所にあるスーパーマーケットのお惣菜コーナーで、アルバイトに汗を流すランディには笑わされます。
「おひつじ」のリングネームで愛されているランディが、むね肉やモモ肉をフライドチキンにしているのが皮肉でした。
現場主任に仕事時間の延長を頼み込みながらも、「週末は忙しい」などと見栄を張ってしまうのが大人気ないです。
ある日の勤務中にお客さんに正体を見破られた挙げ句に、業務用のスライサーで右手を大怪我する一幕が衝撃的でした。
人生という名のリターン・マッチ
強面の悪役レスラーたちからは何かにつけて慕われていて、試合開始直前まで笑顔を交えて親交を深めている様子に心温まりました。
かつてのライバル・アヤットラーとのレスラー生活20周年を記念した、メモリアル・マッチの開催にもワクワクさせられます。
相手のレスラーは既に現役を退いていて、その知名度を活かして中古車販売業にまで手を出すなど世渡り上手です。
ぼろぼろになりながらも未だに第一線に止まり続けている、不器用なまでのランディの方を応援したくなりました。
こんな人におすすめ
復縁を迫った娘のステファニーとの約束をすっぽかして、決定的な親子関係の破綻を招いてしまうのが切ないです。
リングサイドて見守っていたはずの恋人・キャシディも、余りの痛々しさに目を背けてしまうのも致し方ありません。
リングこそが帰るべき家であり、プロレス仲間たちだけが家族であるという残酷な現実を突き付けられるラストでした。
プロレスの観戦や格闘技イベントには目がない方たちや、若かりし頃のミッキー・ロークに熱狂した世代の皆さまは是非みて下さい。
みんなのレビュー
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