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キャスト・スタッフ
「メゾン・ド・ヒミコ」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「メゾン・ド・ヒミコ」は2005年の8月27日に劇場公開されている、犬童一心監督によるヒューマンドラマです。
恋にも仕事にも行き詰った若手女性お笑い芸人コンビの悲哀をテーマにした「二人が喋ってる。」から、大島弓子によるコミックエッセイを小泉今日子の主演で実写化した「グーグーだって猫である」まで。
CMディレクターから小説の執筆活動までを幅広く手掛けている、人気の映像作家がメガホンを取りました。
「ジョゼと虎と魚たち」でも犬童監督をコンビを組んだ、脚本家の渡辺あやがオリジナルのシナリオを書き下ろしています。
男性同性愛者のために開かれた高齢者施設を舞台にして、とある親子の愛憎半ばする関係が映し出されていく作品です。
あらすじ
伝説的なゲイ・バーとして有名な「ヒミコ」を長年に渡って切り盛りしてきたママの卑弥呼が、ある日突然に店を畳んで設立したのが性的少数者のための入居施設「メゾン・ド・ヒミコ」です。
卑弥呼の本名は吉田照男で、かつては妻と娘の沙織と一緒に暮らしていました。
沙織は自分と母親を捨てて家を出ていった父親を、今でもまだ恨んでいます。
そんな沙織のもとにある日突然訪ねてきたのが、卑弥呼の恋人である春彦です。
半ば強引にメゾン・ド・ヒミコへ連れて行かれてスタッフにさせられてしまった沙織でしたが、卑弥呼がガンに侵されて余命幾ばくも無いことと自身も多額の借金を抱えているために逆らえません。
父に対しては未だにわだかまりを覚えていた沙織でしたが、日曜日ごとに入居者の世話をするうちに次第に心境の変化が訪れるのでした。
イメージを脱ぎ捨てて新たな役どころにチャレンジ
吉田沙織を演じている柴咲コウが、 華やかなイメージを封印して地道で残念な女性の役にチャレンジしているところが良かったです。
男ばかりのメゾン・ド・ヒミコの中に異物として迷い込んでいるうちに、いつしか画面の中に違和感なく溶け込んでいきます。
死に瀕してもなおカリスマ性溢れる卑弥呼の役に、世界的なダンサーとして活躍する田中民が圧倒的な存在感でアプローチしていました。
鍛え上げられた肉体には舞踊の師範のようなムードが漂っていて、常に側に付き添っている岸本春彦が弟子のように思えてくるはずです。
春彦に扮しているオダギリジョーも、美しくも怪しげな色気を放っていました。
世間の荒波に揉まれた人たちが辿り着いた安息の地
波乱万丈な人生を歩んできた卑弥呼が自らの最期を締めくくる場所として選んだ、メゾン・ド・ヒミコの立つ神奈川県三浦半島の風景には癒されるはずです。
卑弥呼の病室の開け放たれた窓からは、微かに波の打ち寄せる音が聞こえてきます。
開放感のあるテラス席を気の合う入居者同士で囲んで、海を眺めながら過ごすランチタイムも実に楽しそうでした。
その一方では施設の壁にスプレー缶でラクガキされた、猥雑な言葉や誹謗中傷には胸が痛みます。
一見するとお気楽な毎日を送っているようにも思える住人たちも、この場所に辿り着くまでにありとあらゆる差別や冷たい眼差しにさらされてきたのでしょう。
穏やかな海辺のホームの佇まいにも、綺麗ごとでは片付けられない苦労がにじみ出ていました。
アクロバティックな人間関係と奇想天外なストーリーも受け入れられるはず
本来ならばあり得ないようなぶっ飛んだ人間関係や舞台設定も、本作品を見ているうちにすんなりと受け入れられるようになっていくはずです。
実際にメゾン・ド・ヒミコのモデルになった、性的マイノリティ専用の老人ホームがフィリピンには存在しているというから驚きですね。
今の時代に少しでも周りと異なる存在をターゲットにして、徹底的に排除してしまう日本の息苦しい風潮についても思いを巡らせてしまいました。
沙織が過去の葛藤を乗り越えて常識から解き放たれて父親の全てを許そうとしたように、様々な生き方や価値観を共存共栄させることの素晴らしさが込められています。
冴えない娘と伝説的な父との久しぶりの対面
町中にある外壁塗装工事専門の工務店「細川塗装」で黙々とルーティンワークをこなす吉田沙織からは、およそドラマティックな恋愛やドラマの予感はありません。
代わり映えのない日々にウンザリしながらも、言い訳ばかりを並べ立てて行動を起こさない持ち前の性格も不甲斐ないです。
そんな平凡な娘からは凡そ想像がつかないのが、かつては銀座でゲイバーのママをして名を挙げた「卑弥呼」こと吉田照男です。
そんな対極的なふたりを結び付けていくのが、ハンサムなルックスにも恵まれながら性的マイノリティとして生きることを選んだ岸本春彦だという点も運命的なものを感じますね。
1日3万円の高額報酬につられてメゾン・ド・ヒミコを手伝うことになった沙織ですが、何をやってもどんくさいのが笑いを誘います。
父親との和解のきっかけも、一向に掴めそうにもありません。
1枚の写真が過去と現在を繋いでいく
ホームの共用スペースに貼られていた思い出の写真から、沙織が父と母の意外なエピソードを垣間見るシーンが印象深かったです。
施設の運営方針に対する無理解が薄れていき、頑なに閉ざし続けていたはずの沙織の心も次第に開かれていきます。
風変わりな入居者に振り回されながらも、彼らの寛容性や優しさに動かされていくようで微笑ましく映りました。
人と人との触れ合いを体験することによって、初めて思い込みや偏見の壁を乗り越えていけるのかもしれません。
徐々に父とも会話を交わしながら打ち解けていきますが、彼に残された時間は残りあと僅かです。
変わらないようでいて変わっていく人たち
死の間際につかの間の父と娘との絆を修復する、沙織と卑弥呼の決意が感動的です。
春彦と沙織との友人以上恋人未満な関係性も、じれったくもあれば心地よくも感じてしまいます。
単純なハッピーエンドで締めくくることなく、そこにはほろ苦い現実や残酷な別れも淡々と映し出されていました。
これまで通りに塗装会社で働く沙織の仏頂面で、物語は静かなエンディングを迎えます。
化粧っけのない顔と野暮ったい立ち振る舞いは相変わらずですが、その表情には映画の冒頭にはなかった不思議な魅力に満ち溢れていました。
クライマックスで細川塗装に舞い込んできた1件の電話での依頼と、現場に駆け付けた沙織が目の当たりにした思わぬメッセージにはホロリとさせられるはずです。
こんな人におすすめ
ふたりの男性とひとりの女性とが織り成していく奇妙な味わいの人間模様が、美しく幻想的なタッチで描かれていました。
父親や母親を始めとする身近な人との関係性や、血の繋がりについて思い悩んでいる皆さんは是非ともこの1本をご覧になってください。
自分の思いを一方的に押し付けるだけではなく、相手の心を理解して受け入れていく素直な気持ちがきっと沸いてくるはずです。
2013年度のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したアブデラティフ・ケシシュ監督による「アデル ブルーは熱い色」から、吉井怜と今宿麻美の共演が記憶に残る川野浩司監督の「LOVE MY LIFE」まで。
LGBTの人たちの生きざまをテーマにしたその他の名作と、合わせて見ていただきたいと思います。
みんなのレビュー
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