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キャスト・スタッフ
「ALONE アローン」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ALONE アローン」はファビオ・レジナーロとファビオ・グアリョーネのふたりの監督によって製作されました。
本国イタリアでイーグル・ピクチャーズの配給によって先行上映されていて、日本での封切りは2018年の6月14日です。
新婚カップルが密室を通してお互いの秘密を暴いていく「YES/NO イエス・ノー」や、遺体安置所で働く作家志望の青年の葛藤を描く「Dolceroma」など。
心理サスペンスからヒューマンドラマまでの創作活動を続ける、ミラノ出身のふたり組映画作家が長編デビューを果たしました。
イベリア半島の南西沖に浮かぶスペインの自治州、カナリア諸島のフエルテベントゥラ島での現地ロケを敢行しています。
地雷源にたったひとりで取り残されたアメリカ人の青年が、決死の脱出を試みるシチュエーションスリラーです。
あらすじ
アメリカ軍所属の狙撃者マイク・スティーブンスは、パートナーのトミー・マディソンとアフリカ大陸北部へ向かいました。
本部の不手際とマイク自身の気の迷いもあり容疑者の射殺には失敗してしまい、一旦は軍が中継地点にしている村へと引き返すことにします。
村の手前までたどり着いたふたりが目撃したのは、3000万発の地雷が埋め込まれているという警告看板が立てられた危険エリアです。
時間がかかっても安全な迂回路を行くことをマイクは提案しましたが、せっかちに強行突破を主張するトミーには聞き入れてもらえません。
直後にトミーは爆風を浴びて重傷を負い、マイクも無数の地雷に取り囲まれたために無線を使って大至急の応援を要請します。
次に部隊がこのポイントを通過するまでの52時間を、マイクは身動きひとつすることなく必死に救助を待ち続けていくのでした。
絶体絶命の独り舞台
孤立無援の中でも諦めることなく生還を誓う主人公のマイク・スティーブンスを、アミー・ハマーが力演していました。
ルカ・グァダニーノ監督作「君の名前で僕を呼んで」での、北イタリアの別荘でひと夏の体験を謳歌する学生役が記憶に新しいですね。
本作品では映画の主演俳優というイメージから遠ざかって、独り舞台に挑む演劇人のような佇まいを披露しています。
マイクが今現在抱えている焦りやジレンマに加えて、少年の日の思い出話まで再現していく迫真の演技は見逃せません。
マイクの頼れる相棒にして掛け替えのない戦友でもある、トミー・マディソン役に起用されているのはトム・カレンです。
殺伐とした戦場でもユーモアを忘れることのないムードメーカー的な役割りだっただけに、早すぎる退場が惜しまれました。
遠く離れた母国から恋人の帰還を渇望する、ヒロイン・ジェニー役のアナベル・ウォーリスの美しさには癒やされます。
窮地へと立たされる
地平線の彼方へと広がっていく雄大な眺めに恵まれながらも、オアシスはおろか木陰さえ存在しない過酷な砂漠が舞台になっています。
大自然のど真ん中に突如として投げ込まれてしまった時の、生身の人間の無力さを痛感させられることでしょう。
食糧も飲料水も手元にない中で奇想天外な方法を編み出して、襲いかかってくる飢えと渇きを耐え忍んでいました。
気象条件による肉体的な苦しみや疲労感ばかりではなく、心理的なプレッシャーも少しずつマイクの残りライフを奪っていきます。
幾度となく死の誘惑に晒されながらも、最後まで希望を捨てることのないマイクのサバイバルを見届けて下さい。
生き延びるための秘訣
106分に及ぶ上映時間の半分以上がマイクの孤軍奮闘ぶりとモノローグで構成されていますが、様々な要素が詰め込まれていて退屈しません。
援軍が駆け付けるまでの52時間を、如何にして恐怖感を振り払いながら切り抜けていくのか引き込まれていきます。
前に一歩踏み出すことも後ろに引くことも許されない進退極まる状況下において、マイクの心の拠り所となるのはポケットの中のスマートフォンでした。
婚約者ジェニーの画像やお気に入りの音楽ファイルが、絶望の淵から救い上げてくれる力に変わっていきます。
体力的にも精神的にも限界に達してタイムリミットが刻一刻と迫りくる中でも、マイクを支えた愛する人への想いにホロリとさせられるはずです。
遠い国の遠い死
腕利きスナイパーとしてテロリストを暗殺してきた、マイクの終わりなき戦いの日々に思いを巡らせてしまいます。
戦友の肉体が木っ端微塵になる瞬間を目の当たりにしても、マイクのぼんやりとした表情には現実味がありません。
戦場という非日常の空間で次から次へと任務をこなしていくうちに、何時しか人間の死に対して無感動になっていました。
テレビのニュースやインターネットを通して知る海外の紛争や衝突に、無関心になっていく島国の住人にも繋がるものがあります。
黙々と任務を遂行していたマイクが名前も知らない異国の花婿と彼の父親を、狙撃することを躊躇ってしまうシーンが印象深かったです。
狙撃用のゴーグルをはずして自分自身の目で相手を直視することによって、人間らしい感情を取り戻した様子に心温まります。
甦る記憶と生まれる幻想
地雷を踏んでしまって崖っぷちに立たされたマイクは、心の奥底に封じ込めていたトラウマと向き合っていきます。
回想シーンを通して彼の意外な人となりに触れることで、忌まわしき記憶がフラッシュバックしていくのもスリリングです。
マイクが頭の中で思いを巡らせていた妄想が、空中に出現したスクリーンに投影されているようで幻想的でした。
どこからともなく出現した北アフリカのイスラム教徒が告げる、「恐れずに前に進め」という言葉が神託のように響きます。
砂漠がステージに早変わりしていき、夜空に浮かび上がった月は舞台上を照らし出すスポットライトのようです。
マイクの遥か後方をジグザグ歩きで通り抜けていく無邪気な少年少女たちや、異教徒のキャラバン隊も脳裏に焼き付きました。
極限状況下に見えた希望の光
映画の冒頭で現地との住民との間に交わされた会話の中にも、ピンチを脱出するための大きな手掛かりが隠されていました。
一見すると脇役程度に思えていた登場キャラクターでさえも、終盤にはマイクにとって思わぬ救いの手となります。
背景の一部分に何気なく置かれていたブリキの空き缶のような小道具にも、予想を上回るほどの利用価値があるのが面白かったです。
闇雲に戦争反対を叫んだり特定の国や指導者を批判することもなく、一方的にひとつの主義や思想を押し付けてくることもありません。
見る人によってそれぞれの解釈が可能で、数多くの解決方法や開かれた考え方を導き出すことが出来るはずです。
ひとつの物語が静かに幕を閉じるとともに、更なる物語が立ち上がっていくかのようなクライマックスが圧巻でした。
こんな人におすすめ
息も尽かせぬ銃撃バトルやアクションシーンではなく、静寂と緊張感を前面に押し出した異色の作品と言えるでしょう。
ダグ・リーマン監督が2017年に発表した「ザ・ウォール」や、ヴィクトル・ネクラーソフの金字塔「スターリングラードの塹壕にて」等。
逃げ場のない激戦地を舞台にした戦争文学の愛読者や、ミリタリー映画のファンにはお奨めな作品になっています。
ド派手な演出にドキドキの活劇がお好みの皆さんも、新たな境地を開拓するつもりで是非ともご覧になって下さい。
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