動画配信
キャスト・スタッフ
「よこがお」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「よこがお」は日本の角川大映スタジオと、フランスのCOMME DES CINEMASによって合同製作されました。
日本ではKADOKAWAの配給によって、2019年の7月26日のテアトル新宿館を封切りに全国ロードショーされています。
国籍不明の男が波のまにまに消え失せていく「海を駆ける」や、都会暮らしに疲れた予備校生が海辺町で英気を養う「ほとりの朔子」など。
インドネシアからアメリカまで海外での勢力的な創作活動を続けていく、深田晃司監督がメガホンを取っています。
企画を担当したプロデューサーのKazの原案をもとに、深田晃司が111分のオリジナルシナリオへと纏め上げました。
突如として濡れ衣を着せられて転落していく訪問看護師が、細やかな逆襲に打って出るサスペンスドラマです。
あらすじ
終末医療患者を専門に訪問看護の仕事を続けている白川市子は、温厚な性格と献身的な働きぶりで親しまれています。
市子がここ1年ほど前から担当するようになったのは大石家で、塔子は末期ガンを患っていて余命いくばくもありません。
塔子の孫娘・基子は社会人生活にいまいち馴染むことが出来ずに、長らく引きこもりがちな状態が続いていました。
そんなある日のこと基子の妹に当たる女子中学生のサキが何者かに誘拐されて、1週間後に保護される事件が発生します。
誘拐犯人として捜査線上に予想外の人物の名前が浮上して、市子もまったくの無実でありながら関与を疑われる始末です。
これまで築き上げてきた社会的な信用を失ってしまった市子は、綿密に練り上げた復讐計画を実行していくのでした。
実力派女優のぶつかり合い
理不尽な誹謗中傷に襲われながらも凛とした佇まいを崩すことのない、主人公の白川市子役は筒井真理子です。
ストイックなまでに善良な市民として歩んできた半生と、訪問看護師としてのパーフェクトな立ち振舞いが魅力的でした。
深田晃司の第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門受賞作、「淵に立つ」では娘の介護に鬱屈としている母親役で出演していますので見比べてみて下さい。
映画後半で追いつめられていた市子が、突如として「リサ」へと豹変していく様子には鬼気迫るものがあります。
血の繋がりのない市子を実の姉のように慕っている、影のヒロイン・大石基子の役を好演しているのは市川実日子です。
市子との間に築き上げていく疑似家族とも言えず共犯者とも異なるような、不思議な関係が胸に焼き付きました。
モスクワ映画祭で最優秀女優賞に輝いた安藤尋監督作「blue」の、同性のクラスメートに友情以上の想いを寄せる少女を思い出してしまう方も多いのではないでしょうか。
見えないものを映す
随所に挿入されていく鏡の反射を利用したショットや、ガラス越しの映像に騙されないように気を付けて下さい。
映画の冒頭に登場する小洒落た美容室の店内に設置された、アンティーク調の大きな鏡台には目を奪われてしまいます。
馴染みのないお客さん・リサのヘアカットを終えた美容師の米田和道ですが、鏡超しの会話だけで直接目線を合わすことはありません。
初めて目と目を交錯させて会話を交すことが出来たのは、彼女を担当してから数日が経過した出勤前の道すがらでした。
リサから手渡された偽のアドレスをすっかり信じこんでしまった米田は、自分自身が向かいのアパートから監視されていることに気が付きません。
仲良し大石姉妹が資格取得の試験勉強や学校の宿題のためにしばしば訪れる喫茶店も、ガラス張りになっているために表通りからは丸見えです。
年齢の離れたふたりの魅力的な姉と妹に何処からともらなく注がれる眼差しが、果たして恋心なのか良からぬ企みなのか見極めてください。
女の横顔に惑わされる
ミステリアスな笑みを湛えたヒロイン・白川市子の横顔が、タイトル通りにオープニングから映し出されていきます。
カメラに対して顔の左半分を向けているために、もう一方の右半分に関してはまるっきり伺い知ることが出来ません。
映画序盤での「白川市子」としての穏やかな横顔が、少しずつ内なる悪意を秘めた「リサ」へと入れ替わっていくのを見逃さないで下さい。
物事の片一方ばかりをさっと眺めただけで、もう片方に気が付かない危険性については身につまされるはずです。
順風満帆だったはずの市子の人生を急転直下で一変させることとなったのが、訪問先で巻き込まれた大石サキ誘拐事件です。
市子自身にとっては完全なる傍観者の立場である上に、犯行にも全く加担していない潔白なために後ろ暗いことは何もありません。
彼女が何故犯人に言われるままに秘密を隠すことにしたのか、その意外な理由が明かされた時にもうひとつの横顔が浮かび上がってきます。
市子はみんなの人気者
職場の同僚からは頼りにされて、プライベートでも結婚を控えて幸せいっぱいな白川市子が微笑ましかったです。
ハードな介護の現場でもてきぱきと動き回り、患者の家族たちからも慕われている彼女の誠実な人柄が伝わってきました。
市子に対して前々から憧れの気持ちを募らせていた基子が、遂には介護福祉士を目指して勉強をし始めてしまうほどです。
本業の在宅ケアが終わった後には、基子とサキの世話まで嫌な顔ひとつせずに見てあげる市子の度量の大きさには感心させられます。
ようやく長年のニート生活から脱却出来そうな基子の後を密かに付け回す、市子の甥っ子・辰男の影が不気味でした。
秘密で結ばれたふたりの破綻
ふたりだけの秘密を分かち合うことで固く結ばれていく、市子と基子との言い知れない高揚感が印象深かったです。
遊びに行った動物園で明かされる甥っ子との背徳感たっぷりとしたエピソードや、押し入れでの危険な遊戯にはハラハラさせられます。
全てを忘れて少女時代に還ったかのような市子の天真爛漫さと、これまでの無為な時間を取り戻すかのような基子の生き生きとした姿には心温まりました。
楽しかったふたりだけの時間に迫る終わりを予感させるかのような、市子のフィアンセ・戸塚と基子の対面から緊張感が高まっていきます。
顔のない群衆が暴徒化する恐怖
あらぬ悪い噂を週刊誌に書き立てられて、市子が世間からつま弾きにされていく後半パートには胸が痛みました。
訪問看護ステーションにまで押し寄せてくるマスコミ関係者の横暴さと、不特定多数からの誹謗中傷には圧倒されます。
あんなにも熱を上げていたはずの市子に対して、手のひらを返したように冷たい態度を取る基子の心の闇を理解することは難しいです。
犯罪被害者を分け隔てすることなくサポートするはずのNPO法人からも見捨てられた市子が、最後にたどり着いた場所が圧巻でした。
こんな人におすすめ
ありとあらゆる苦しみに耐え忍んだ市子が、髪の毛を鮮やかな緑色に染め上げて湖のほとりに佇む終盤間近のシーンが忘れられません。
僅かながら市子と基子との絆が途切れてないことを匂わせるような、ラストに鳴り響くクラクションも心憎いです。
マイケル・カニンガムのピュリッツァー賞受賞作を実写化した「めぐりあう時間たち」や、演技経験のない4人のワークショップ研究生を大抜擢した「ハッピーアワー」等。
世代を越えた女性たちの群像を描いた小説やドラマに興味がある皆さんは、是非ともこの1本をご覧になって下さい。
みんなのレビュー
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