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キャスト・スタッフ
「孤独な天使たち」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「孤独な天使たち」は2013年4月20日に劇場公開されている、ベルナルド・ベルトルッチ監督によるヒューマンドラマです。
イタリアの小説家ニッコロ・アンマニーティによって2010年に発行されている、青春文学「Io e te」を映像化したものです。
138ページの中編小説を原作者自らが製作スタッフに加わって、97分のオリジナルシナリオに纏め上げました。
第65回のカンヌ国際映画祭では特別招待作品として出品された後に、日本でもブロード・メディア・スタジオの配給によって全国順次ロードショーされました。
地下室に閉じこもって1週間を過ごそうとしていた男の子が、予想外の訪問者との触れ合いによって成長していく感動作です。
あらすじ
14歳になったばかりのロレンツォ・クーニは極度に内向的な性格で、クラスの中でも目立たないタイプの男子生徒です。
友だちがひとりも居ないため引きこもりがちな息子のことを、アリアンナは何かにつけて心配していました。
母親を安心させたかったロレンツォは、ふとした弾みから「学校のみんなとスキーに行く」と嘘を付いてしまいます。
涙を流さんばかりに喜んでしまったアリアンナに対して引っ込みが付かなくなり、いまさら本当のことを告白する訳にはいきません。
当日の朝に見送りに行くとしつこいアリアンナを振り切ったロレンツォは、集合場所ではなく自宅に引き返します。
使用されていない地下フロアで何とか1週間をやり過ごそうとしていたロレンツォに、招かれざる客が訪ねて来るのでした。
孤独な家族たちを演じる
若干マザコン気味で自意識過剰な主人公のロレンツォを演じているのは、ジャコポ・オンティモ・アンティノーリです。
昆虫の生態について異様なほどの感心を示していて、同級生や人混みの中に紛れ込もうとする性質は「擬態」を思わせます。
ロレンツォの異母姉でもあり肉体的にも精神的にも傷ついたヒロイン、オリヴィアにテア・ファルコが扮していました。
我が儘で次から次へと厄介事を持ち込んでくるようなトラブルメーカーな彼女にも、不思議と愛着が涌いていきます。
母親でもありひとりの女性でもある、ふたつの顔を持ったアリアンナの役を務めるのはソニア・ベルガマスコです。
息子のロレンツォの前では良妻賢母の仮面を被りながらも、略奪愛も辞さない変貌ぶりには圧倒されるでしょう。
精神科医役にキャスティングされているピッポ・デルボーノや、フェルディナンド役のトマーゾ・ラーニョも出番こそ少ないものの存在感抜群でした。
ロレンツォの秘密基地
ロレンツォが自称「スキーバカンス」を送ることになるのは、自宅マンションの玄関ホールを抜けた先にある地下の物置小屋です。
簡易式の洗面所やバスルームまで設置されていて緊急用の電力源も設置されているために、1週間程度の籠城には耐えきれるでしょう。
年代物のアンティークや家具までがところ狭しと並べてあって、没落貴族が隠れ住んでいたという曰くもあります。
合宿参加費用という名目でちゃっかり受け取ったお金で、コカ・コーラからミルクチョコレートまでを大量購入しているために食糧には困りません。
お気に入りのスティーヴン・キングの小説からテレビゲームに、マーベルコミックまで積んであってオモチャ箱をひっくり返したかのようでした。
近所のペットショップで購入した巨大な水槽に砂を敷き詰めて、蟻の巣作りを観察するシーンが印象深かったです。
蟻の行動をじっと眺めているロレンツォの横顔を、スクリーンを通して観客自身が眺めているような奇妙な感覚を味わって下さい。
孤独な少年への応援ソング
作曲家や指揮者としても活躍しているフランコ・ピエルサンティが、本作のサウンドトラックを担当しています。
「ゴッドファーザー」や「太陽がいっぱい」に代表されるような名画音楽を手掛けている、ニーノ・ロータの愛弟子です。
劇中でロレンツォとオリヴィアがダンスをする場面では、「ロンリー・ボーイ、ロンリー・ガール」が流れます。
もともとはデヴィッド・ボウイがスタンリー・キューブリック監督の、「2001年宇宙の旅」からインスパイアされて1969年にリリースした曲です。
イタリア語に翻訳されたロング・ステレオ・バージョンが発表されたのは、原曲誕生から40周年を迎えた2010年のことでした。
ベルトルッチ監督はたまたまタクシーに乗っていた時にカーラジオからかかっていたこの曲を聴いて、本作の主題歌に選曲したという逸話が驚きですね。
宇宙空間に放り出されていたトム少佐と、地下室で踊る母親違いの姉弟とのドラマチックなめぐり逢いに思いを巡らせて下さい。
ひとりっきりの合宿
泊まりがけのスキーウォークの待ち合わせ場所に向かう少年少女たちの流れに、ひとり逆らって離脱するのがロレンツォです。
スキー板を持って大きなリュックサックを背負っているために、スーツを身に纏ってネクタイを締めたサラリーマンでいっぱいの通勤電車では目立っています。
路面電車を降りたロレンツォを待ち受けているのは、ローマ市内の閑静な高級住宅街であり雪山ではありません。
詮索好きなマンションの管理人の芽をくぐり抜けて秘密の隠し部屋へと駆け込むロレンツォの姿が、ロールプレイングゲームの主人公のように映りました。
美しくも儚げな彼女
自由気ままに音楽鑑賞を楽しんでみたり読書に明け暮れていたロレンツォを妨げるのは、姉・オリヴィアの来訪でした。
固く閉ざされていたロレンツォの心の扉を叩くかのように、地下室内に響き渡っていくノックの音が心地よかったです。
201年ぶり2度目のきょうだいの対面を果たすこととなったオリヴィアとロレンツォですが、父親は同じでも母親はそれぞれ別なために半分しか血が繋がっていません。
若くしてカメラマンから映像クリエイターまでを幅広くこなすマルチな才能と、その恵まれたスタイルとルックスが魅力的です。
美しい佇まいの中にも何処か憂いを滲ませた瞳と、彼女が心の奥底で抱えている想像を絶する痛みに引き込まれていきました。
隠れるのをやめた少年は青年へ
転がり込んできたはた迷惑の塊のようなオリヴィアと、ロレンツォが初めて顔と顔を付き合わせ本音をぶつけ合う場面が感動的です。
オリヴィアから贈られた「いつまでも隠れている訳にはいかない」という言葉は、如何なる優秀な精神科医の診察よりも勇気を貰えます。
その一方では違法な薬物に溺れていたオリヴィアも、変わり始めていくロレンツォに突き動かされていくかのように悪友のフェルディナンドとの関係を絶ちました。
ふたりだけの濃密な時間の終わりと共に、外の世界へと足を踏み出していくロレンツォの満面の笑みは忘れられません。
こんな人におすすめ
2018年11月26日に数多くの国際的な映画祭で栄光に輝いてきたベルトルッチ監督が、世界各国のファンに別れを告げました。
ひとりの未熟な少年の旅立ちをテーマにした本作品が、イタリア映画界の至宝にとって遺作になってしまったことが惜しまれます。
クラスメートとのコミュニケーションに悩んでいたり、教室の中で居場所の無さを覚えている中学生の皆さんにはお勧めです。
原作は中山エツコの翻訳によって2013年の2月18日に、河出書房新社から刊行されています。
映画版では描かれることのなかった、10年後のオリヴィアとロレンツォの運命も知ることが出来ますので読んでみて下さい。
みんなのレビュー
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