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キャスト・スタッフ
「かごの中の瞳」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「かごの中の瞳」は2018年の9月28日に劇場公開されている、マーク・フォースター監督によるサスペンスドラマです。
「チョコレート」に代表されるようなヒューマンドラマから、 ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた「ネバーランド」まで。
幅広いジャンルで創作活動を続けている実力派の映画作家によって、2016年にアメリカで制作されています。
2016年に開催された第41回のトロント国際映画祭でプレミア上映作品として注目を浴びた後に、本国のアメリカに上陸して283館で限定公開されました。
タイの首都バンコクから観光地プーケットを経由して、スペインのカタルーニャ地方・バルセロナまで。
国境を超えた有名都市や観光スポットでの現地ロケを敢行している作品です。
随所に伏線が張り巡らされたスリリングなストーリーと、訳ありな夫婦の間で繰り広げられていく心理戦は一見の価値があります。
あらすじ
幼い頃に交通事故に遭って、ジーナの視力は失われてしまいました。
保険会社に務める心優しい男性・ジェームズと出会って結婚へと至り、彼の赴任先のバンコクで暮らしています。
夫の献身的なサポートのお蔭で経済的には何不自由ない暮らしを送っていましたが、子供にだけは恵まれません。
ある時に医師の勧めによって角膜移植の手術を受けたジーナは、 片方の目の視力を人並みに取り戻すことに成功しました。
初めてジェームズの素顔を見ることが出来たジーナでしたが、 頭の中で勝手に思い描いていたハンサムな顔とはかけ離れた地味な中年男性で内心がっかりしてしまいます。
ひとりで街中へと出ていけるようになった彼女は、髪を明るい色に染め上げて最先端のファッションで着飾ることにすっかり夢中です。
変わり始めていく妻にジェームズが疑惑の眼差しを向ける中で、夫婦に突如として悲劇が訪れるのでした。
美しく色づいていくブレイク・ライヴリーと生命力が消えかけたジェイソン・クラーク
ヒロインのジーナには、 テレビシリーズ「ゴシップガール」の大ヒットで脚光を浴びたブレイク・ライヴリーがキャスティングされています。
2016年にジャウム・コレット=セラ監督によって制作された「ロスト・バケーション」では、 秘境の海辺で鮫とのバトルを繰り広げる勇ましい水着姿を披露していたのが記憶に新しいです。
本作品の序盤では自慢のブロンドヘアを封印しつつ、 如何にも貞淑な既婚女性の外見になりきっていて驚かされました。
中盤から後半パートにかけてジーナの心境と共にいつの間にか変わっていく、彼女の髪の毛のカラーにも注目してみて下さい。
色付いていく妻に困惑気味な、夫ジェームズにはジェイソン・クラークが扮しています。
「ターミネーター:新起動/ジェニシス」でのワイルドで肉体派のイメージとは凡そほど遠いですね。
映像から表現するジーナの瞳の中
わざとピントぼけさせたカメラから映し出されていくぼんやりとした映像によって、光を失った主人公・ジーナの苦悩をあたかも自分のことのように体感することが出来ました。
視力回復によって徐々にカメラのピントが合っていき、くっきりとした映像に変わっていく演出も面白い試みです。
ロールシャッハ検査を思わせるようなCGで加工されているイメージや、 背景や登場人物が身に纏っている彩り豊かな衣装からも目が離せません。
ジェームズの赴任地であるタイのプーケットは、豊かな自然に囲まれて多種多様な花が咲き乱れていて美しさ溢れています。
ジーナとの新婚旅行先でもありふたりの気持ちが微妙にすれ違っていくきっかけになる、カタルーニャ地方・バルセロナの歓楽街もきらびやかなネオンに包まれていて幻想的な味わいがありました。
歌に込めたミステリアスなメッセージに耳を傾ける
フォークシンガーのジャニス・イアンが1976年に発表したシングル曲、「ラブ・イズ・ブラインド」という歌を聞いたことがありませんか?
日本では「恋は盲目」という邦訳タイトルで紹介されていて、1976年に小説家の市川森一が脚本を執筆したテレビドラマ「グッドバイ・ママ」のテーマソングにもなりました。
本作品でも見えるのに見えない振りをしているヒロインの象徴として、重要な役割を果たしています。
ジーナがジェームズとの別れを決意するコンサート会場で歌う、「Double Dutch」の歌詞の中に込めたメッセージも何とも意味深です。
更にはエンディングではこの歌に対するアンサーソングも用意されていますので、スタッフロールが流れても席を立ったりDVDプレイヤーのスイッチを切らないで下さい。
徐々に移りゆくふたりの関係
見えない人妻が視力を回復させることによって、 次第に自我に目覚めていく妖艶さには引き込まれていきました。
パワーバランスの予期せぬ逆転によって、パートナーの関係性や恋愛の主導権が移り変わっていく様子がリアリティー溢れています。
本来であれば真っ先に喜ぶべきである夫が、次第に猜疑心と嫉妬に追い詰められていく様子にも鬼気迫るものがありました。
身に付けている洋服も垢抜けてメイクもすっかり派手になり輝きを増していく一方のジーナと、気持ちが沈んで窶れていくばかりのジェームズとのコントラストが鮮やかです。
ジェームズが男性としての身体的な欠陥を抱えているために、ジーナとジェームスが子供を授かることが出来ないのも原因のひとつなのでしょう。
夫としての体面を保つためにジェームズが引っ越しを決意することによって、ふたりの夫婦関係は更にややこしくなっていきます。
真実を見ることは幸せなのか
視力が回復して万々歳のジーナですが、果たしてジェームズにとっては幸せなことだったのでしょうか?
自宅に泥棒が入ったかのような偽装工作を施したり、ジーナの目薬に細工をしたり、彼女が可愛がっていた愛犬に手をかけてしまったり。
愛する妻を引き留めるためとはいえ、ジェームズの常軌を逸した一連の行動は到底理解することは出来ません。
そんな嘘で塗り固められた良き夫としての虚像が、あっけなく崩れ去ったのは何者かによる密告の手紙が舞い込んできた時です。
夫婦にとってはお互いにありのままの姿を見せることと、ありふれた毎日を繰り返すことこそが何よりも大切であると痛感させられました。
失意に打ちのめされたジェームズが運転する車は、皮肉をたっぷりと含んだ悲劇へと転がり込んでいきます。
こんな人におすすめ
クライマックス近くに発生する思わぬ自動車事故は偶然のものなのか、ドライバーの自殺なのか、はたまた仕組まれた殺人事件なのか。
多くを語ることなく物語は幕を閉じていきますので、見終わった後に観客が思い思いに推理を働かせるしかありません。
事故の一報を聞いたジーナが結婚指輪を躊躇うことなく外すラストショットには、ありとあらゆる束縛から解き放たれたような爽快感を味わうことが出来ます。
古くに遡るとテレンス・ヤング監督がオードリー・ヘップバーンとたっぐをタッグを組んだ「暗くなるまで待って」、ごく最近では天願大介監督が乙一のベストセラー小説家を映像化した「暗いところで待ち合わせ」など。
古今東西の美しき盲目の女性たちを主人公にしたサスペンスやラブストーリーがお好きな皆さんは、是非ともこの1本をご覧になってください。
みんなのレビュー
「かごの中の瞳」を
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