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キャスト・スタッフ
「彼が愛したケーキ職人」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「彼が愛したケーキ職人」は2018年の12月1日に劇場公開されている、オフィル・ラウル・クレイザー監督によるヒューマンドラマです。
オリジナルシナリオの書き下ろしに5年、制作費用の捻出に3年、配給会社の獲得に1年。
新進気鋭の映画作家が長い年月を費やして、イスラエルとドイツの2カ国による合同製作を実現させました。
イスラエルの伝統的な映画賞・オフィール賞で7部門同時受賞の快挙を達成した他、チェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭やカナダのモントリオール・イスラエル映画祭でも高い評価を受けています。
ドイツ・ベルリンとイスラエルのふたつの街を行き来しながら、ひとりの男性を愛したふたりの男女の不思議な関係をテーマにした作品です。
あらすじ
ベルリンでケーキ専門店「クレデンッエ」を経営するトーマスが一目惚れをしたのは、 イスラエルからやって来たビジネスマンのオーレンです。
再会を約束しながらも音沙汰がないためにトーマスはイスラエルへと向かいますが、オーレンは交通事故に遭っていて既にこの世にはいません。
夫亡き後も幼い子供を抱えながら小さなカフェを切り盛りしている妻のアナトの力になるために、トーマスはこの地に留まって店員として働き始めることにします。
トーマスが作るケーキはドイツから遠く離れたこの国でもたちまち人気となり、アナトの店は大繁盛です。
ふたりはプライベートでも親しくなっていきますが、ドイツ人を快く思わないアナトの兄・モティの横やりによって思わぬ事態が起こるのでした。
無名の俳優と世界的な女優が絶妙に溶け合う
甘いケーキと苦い恋を味わうことになる主人公のトーマスには、オーディションを勝ち抜いたティム・カルコフが大抜擢されています。
まったくの無名の俳優ながらも、バイセクシュアルにしてケーキ作りの達人という難しい役どころを難無くこなしていました。
アナト役を演じているサラ・アドラーは、イスラエル国内にとどまることなく世界中の名監督から愛されている女優さんです。
企画段階ではスポンサー企業が集まらなかったために殆どボランティアのような出演料で承諾したというから、彼女のこの映画にたいする並々ならぬ思い入れが感じられますね。
亡くなった夫の同性の愛人という信じ難い相手に対しても、臆することなく向き合う寛容な人柄を見事に体現していました。
極上のスイーツにもちょっぴりほろ苦い事情あり
小麦粉からこだわった生地に特製のグレースをトッピングしたシナモンロール、 とろけるチョコレート巻き込んだショコラケーキ、季節の果物をふんだんに使用した焼きたてのタルト。
オーレンが国で待っている妻や息子のお土産として購入する、トーマスお手製のケーキの数々が実に美味しそうでした。
腕利き職人・トーマスが披露する手さばきも華麗で、仕込みの生地作りから仕上げまでの一連の工程には無断がありません。
エルサレムの飲食店で義務づけられている、「コシェル」の制度についても興味深いです。
証明書がないお店はお役所から営業を禁じられてしまうという、ユダヤ教独特な厳しい戒律が伝わってきます。
国境を越えた壮大なロマンス
ケーキ作りに関する知識や腕前だけでなく、トーマスは恋の駆け引きにも長けています。
異国の地から来たセールスマン・オーレンに対しても、積極的なアプローチを仕掛けていく姿が貪欲です。
予期せぬアクシデントによってオーレンを奪われてしまった後も、本能の赴くままに突き進んでいて圧倒されることでしょう。
挙句の果てにはオーレンの妻・アナトにも心惹かれてしまうほどの、肉食系男子な一面も不思議と嫌味がありません。
同性愛のカミングアウトに対して大らかドイツと、まだまだお堅いイスラエルとのお国柄の違いも垣間見えます。
トーマスの自由気ままな振る舞いからは、性的マイノリティーとしての生きづらさばかりではなく国境や文化を乗り越えて誰かを愛することの素晴らしさを感じました。
出会いのきっかけは黒い森をイメージしたチェリーケーキ
妻のためにはオリジナルのケーキを、息子のためには手作りのおもちゃを。
海外勤務のセールスマンとして忙しく飛び回りながらも、国に残した家族のためにプレゼントを忘れないオーレンが微笑ましく映ります。
そんな心優しく上品な立ち振る舞いのオーレンに、トーマスが一目見ただけで心奪われてしまうのも仕方がありません。
イスラエル在住で妻子持ちのセールスマン、ドイツで暮らしている独身のトーマス。
決して交わるはずのなかったふたりが恋に落ちていくきっかけが、ドイツの伝統的なケーキ「ブラックフォーレスト」だったのがドラマティックです。
間もなくふたりは店主と常連さん以上の親密な関係になりますが、哀しい別れが待ち受けています。
見知らぬ土地で下働きからスタート
オーレンの死去を知ったトーマスは、彼の妻・アナトと忘れ形見のタイに実に献身的に尽くしていました。
苦労に苦労を重ねて開発したはずのケーキの秘伝のレシピを、あっさりとアナトに教えてしまう度量の大きさには好感が持てます。
ベルリンでは売れっ子のケーキ職人でありオーナーでありながら、イスラエルの下町のカフェで皿洗いからお掃除までの雑用を押し付けられながらも嫌な顔ひとつしません。
そんなトーマスに対しても今度はアナトが惚れてしまうという、何ともややこしい事態へと突入していきます。
「シャバット」と呼ばれているユダヤ教徒の安息日を明日に迎えてる、静まり返った金曜日の夜の雰囲気が神秘的です。
地元の人たちが一家団欒を謳歌する中でも、余所者のトーマスはちょっぴり寂しそうでした。
嫌悪感剥き出しの兄と理解ある妹に挟まれて
ユダヤ人ではなくドイツ人のトーマスがオーブンを使う様子を目撃して、オーレンの兄・モティがあからさまに嫌悪感を表すシーンが印象深かったです。
ナチス政権下での絶望的なホロコーストを生き延びた人たちが建国した、イスラエル創設の歴史が思い浮かんできて考えさせられました。
それとは対照的にアナトや彼女の息子・タイのように、それぞれの違いや過去のわだかまりに捉われることなく外国人と心通わせていく次の世代も確かに存在します。
まるっきり正反対の兄と妹に翻弄されていくトーマスが、異国の地で感じている寄る辺の無さも切ないです。
やがてトーマスはオーレンの企みによって国外退去を強制されてしまいますが、アナトはホームページで彼のお店を知らべてベルリンを訪れます。
こんな人におすすめ
クライマックスでベルリンの街並みを自転車で駆け抜けていく、トーマスの後ろ姿が開放感に満ち溢れていました。
イスラエルで暮らしていた頃の、性的少数者として苦悩していた頃の面影は微塵もありません。
多様な価値観や生き方を受け入れるという点では、ふたつの都市で明暗がくっきりと分かれています。
海を渡ってはるばる訪ねてきながらも、ひとり取り残されてしまったアナトが何とも哀愁たっぷりです。
イスラエル映画でありながら、政治的なメッセージはそれほど多くは含まれていません。
恋愛物語としてもエンターテインメントとしても、充分に楽しむことが出来ます。
美味しいスイーツに目がないグルメな皆さんは、是非ともこの1本をご覧になって下さい。
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