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キャスト・スタッフ
「ノー・エスケープ 自由への国境」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ノー・エスケープ 自由への国境」は2017年の5月5日にホナス・キュアロン監督によって劇場公開されています。
メガホンを取ったのは第86回のアカデミー賞に輝いたSFアドベンチャー、「ゼロ・グラビティ」の脚本で注目を集めた若手映画作家です。
父親でプロデューサーのアルフォンソ・キュアロンが製作総指揮を執って、8年の構想期間を経て完成まで漕ぎ着けました。
キュアロン親子の盟友である脚本家のマテオ・ガルシアが、完全オリジナルのシナリオを書き下ろしています。
2015年にメキシコとフランスの2カ国で合同製作されていて、第40回のトロント国際映画祭では批評家連盟賞を獲得しました。
メキシコとアメリカとの国境が接する辺境の地を舞台にして、不法入国者をターゲットにする正体不明のスナイパーの凶行が映し出されていく逃走劇です。
あらすじ
整備工として出稼ぎに行っていたモイセスは、カリフォルニア州オークランドに残してきた妻子に会いに不法入国を決行します。
乗ってきたトラックのエンジンが突如として調子が悪くなったために、砂漠のど真ん中で立ち往生してしまいました。
アメリカとの国境まではもう目と鼻の先ですが、ここからはトラックを降りて徒歩で向かわなければなりません。
1番最初に置いてけぼりになりそうになったのは、肥満体で体力には不安があるアフリカ系の男性・ウリセスです。
モイセスが彼に手を貸しているうちに、先を進んでいた11人は突如として何者かからの銃撃を受けて全滅してしまいます。
残されたモイセスたち5人は絶望的な状況の中でも、僅かな望みに全てをかけて必死で逃走を続けていくのでした。
命懸けの追い駆けっこを演じる役者たち
主人公・モイセスの役を演じている、ガエル・ガルシア・ベルナルが浮かべている決死の表情が胸に焼き付きます。
断崖絶壁から飛び降りたりライフル銃を構えた敵に素手で立ち向かっていったりと、華麗なアクションシーンを披露していました。
極限状況下でも周りの人たちを気遣い救いの手を差し伸べて、見えない恐怖に立ち向かっていく姿は正に砂漠のヒーローです。
父・アルフォンソの2001年作品「天国の口、終りの楽園」に出演した時は無名の俳優だったのが、息子のホナスの今作ではメキシコを代表する俳優として成長した姿が感慨深いですね。
姿なき殺人者であり多くを語ることのない謎めいたキャラクター、サムをジェフリー・ディーン・モーガンが怪演しています。
一見すると愛犬のトラッカーと散歩やウサギ狩りに興じている、地元を愛する気さくなおじさんにしか見えません。
決めセリフの「自由の国へ、ようこそ」と、トレードマークとなる紙巻きタバコとソンブレロも似合っていました。
ギリギリのサバイバル
ストーリーの舞台となる国境沿いに広がっている砂漠の、過酷な気象条件が主人公たちを徐々に追い詰めていきます。
過去には違法な薬物の取引を行うカルテル同士の抗争に巻き込まれて、一般人の犠牲者が出た危険地帯です。
カーラジオから微かに流れてくる天気予報によれば、当日の気温は摂氏50度にまで上昇する可能性があります。
国境警察の隊員がパトロールによって監視の眼を張り巡らせていて、逮捕されれば強制送還は免れられません。
次々と生命の危機に晒されて脱落していくスピーディーな展開には、サバイバルゲームのような緊迫感がありました。
15人の不法とブローカーのうち、果たして誰が生き延びることが出来るのか予想しながらご覧になってください。
国境から世界へ訴えかける
主人公たちが外国からの密入国者であるという設定が、物語が進行していくに連れて深い意味合いを帯びていきます。
身の安全を求めてやって来た人たちに対して、2001年の同時多発テロ以降は扉を閉ざし続けているアメリカの現状がほろ苦いです。
国境に巨大な壁を建設することを叫び続けている、2017年に就任した大統領の顔も思い浮かべてしまうでしょう。
映画の中盤で逃走者たちが襲撃から身を隠すために避難する切り立った岩場が、自分と他者とを隔離する壁のようで印象深かったです。
居住ビザを申請中に収容所へ入れられてしまったモイセスのエピソード等、難民問題も取り上げられています。
自分と異なる存在をどれだけ受け入れられることが出来るのかが、この映画の中では一貫して問われていました。
神も仏もいない場所へ投げ出されて
オープニングで貨物荷台に隠れた密入国者のうちのひとりが朗読するのは、ユダヤ人にとっての聖典である「出エジプト記」です。
今から3000年以上も前に、ひとりのカリスマ性溢れる指導者に導かれて砂漠を突破した人たちの姿の思い浮かべてしまいました。
「移住者の思いを理解する主」という当時の言葉は、寛容性が失われていく今の時代からすると綺麗ごとでしかありません。
現代人が大昔から変わることのない大自然へ放り出された時の、余りの無力さについても痛感させられました。
ハイウェイの彼方から音もなく近づいてくる1台のおんぼろジープからは、何とも不吉な予感が高まっていきます。
国を出た理由も人それぞれ
両親が押し付けてきた結婚話によって形だけの関係を続ける仮面夫婦、経済的な理由から離ればなれとなった親子。
それぞれのバックグラウンドも少しずつ明らかになっていくにつれて、登場キャラクターに感情移入できました。
生まれ育った町や故郷を捨てて、ブローカーに高額の料金を要求されて、トラックの荷台で窮屈な思いをして。
数多くの犠牲を払ってリスクを犯してまでやって来た新天地で、彼らに待ち受けているのは希望ではなく余りにも残酷な現実です。
厳重に張り巡らされた有刺鉄線を潜り抜けて向こう側へと一歩足を踏み入れた瞬間から、もう後戻りは出来ません。
不条理な死と恵みの水
サボテンに囲まれた森を抜けてひび割れた地面を踏みしめて歩く一向の後ろ姿からは、哀愁が漂っていました。
スタミナ切れを知らない肉体と、類いまれな射撃テクニックによって追い詰めていくサムには鬼気迫るものがあります。
非情なまでの殺戮を黙々と繰り返していくサムでしたが、最期まで人間らしい感情を見せることもなくその動機を語ることはありません。
強いて言うなれば自分自身を「正義」だと思い込んで、微塵も疑うことのない狂信的な性格のせいなのでしょうか。
飲料水も持たずに砂漠を逃げ回り続けていたモイセスが、クライマックスで噛み締める大いなる潤いが圧巻でした。
こんな人におすすめ
上映時間は88分と短めの作品ですが、濃縮された時間の中に予想外の展開と深いメッセージが込められていました。
1994年にマーティン・キャンベル監督によって製作された映画、「ノー・エスケープ」を連想しまう方も多いはずです。
こちらの作品は脱出不可能な絶海の孤島に聳えたつ監獄を舞台にしていますが、異なる民族の対立という点では共通性がありますので見比べて見て下さい。
盲目ながら超人的な聴覚を持つ軍人との対決がスリリングな「ドント・ブリーズ」や、音に反応する未知の侵略者をテーマにした「クワイエット・プレイス」等。
逃げ場のないシチュエーション・スリラーがお好きな皆さんには、自信を持ってオススメ出来る1本になっています。
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「ノー・エスケープ 自由への国境」を
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