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キャスト・スタッフ
「クリミナル・タウン」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「クリミナル・タウン」はサーシャ・ガヴァシ監督によって、2018年の8月25日に劇場公開されています。
日本でも2018年7月に早川書房から翻訳刊行されている、サム・マンソンによるノワール文学を映像化したものです。
実在する亡命者をモデルにした「ターミナル・マン」や、平凡な日常に生きる青年が銀行強盗へと巻き込まれていく「フェイク・クライム」等。
名監督とタッグを組んでシナリオの執筆を続けている他、ジャーナリストとしても活躍する1966年生まれでロンドン出身の脚本家がメガホンを取りました。
亡くなった親友の無念を晴らすために単独捜査へと乗り出す、ふたりの高校生の活躍を描いたクライムサスペンスです。
あらすじ
半年前に母親をガンで亡くしてからは、アディソン・シャクトは父親のテオとふたりだけで静かに暮らしていました。
地元・ワシントンD.C.の高校に通っている3年生で成績の方は優秀で、シカゴ大学への推薦入学も夢ではありません。
そんな最中にアディソンにとっては掛け替えのない友、ケビン・ブローダスが銃撃を受けて殺害される事件が発生してしまいます。
地元の警察組織は不良グループ同士による抗争と決め付けていて、一向に本格的な捜査に乗り出そうとしません。
幼なじみのフィービーと力を合わせて真犯人を追いかけていくアディソンでしたが、警察や学校からは疑惑の眼差しを向けられて邪魔されてばかりです。
愛するフィービーにも危機が迫る中で、アディソンは事件の背後に潜む恐るべき存在を目の当たりにするのでした。
向こう見ずな若手俳優とブレーキ役のベテラン
主人公のアディソン・シャクトの役を演じているのは、1994年生まれでニューヨーク出身のアンセル・エルゴートです。
前作の「ベイビー・ドライバー」では天才的な運転技術を誇る逃がし屋を怪演していましたが、今作のようなごく普通の高校生役もピッタリですね。
アディソンに心惹かれていくヒロインのフィービー・ゼレニーに、クロエ・グレース・モレッツが抜擢されています。
7歳の頃からテレビドラマや映画に出演していて子役のイメージが強いですが、女子高校生役も似合うようになってきました。
主演のエルゴートとは2013年に学園ホラー「キャリー」で競演していて、この映画でも息の合った掛け合いは健在です。
若いふたりの暴走ぶりを諌めつつも密かにサポートする、アディソンの父・テオ役のデヴィッド・ストラーザンも存在感があります。
政治の町で発生した殺人事件
ワシントンD.C.という地名を聞いた途端に、誰しもがキャピトルヒルのアメリカ合衆国議会議事堂やホワイトハウスの外観を思い浮かべてしまうのではないでしょうか。
世界各国が大使館や出先機関を置く中でも、「殺人都市」と揶揄されるほど犯罪発生率が異様に高いのも厳然たる事実です。
そんな立場の弱い人たちの受け皿となっているのが、国や自治体ではなく反社会的勢力であるのが何ともほろ苦いです。
劇中でもフィービーが外出しようとすると、母親に17歳未満の夜間外出禁止令を理由に止められてしまう場面がありました。
町外れにはスラム街や移民や低所得者向けの居住エリアも設けられていて、貧富の格差も加速しています。
経済的な理由や将来への絶望感が原因となって、罪に手を染めていく若者たちの現状も垣間見ることが出来ました。
レトロ趣味の現役高校生
ルックスは今時の男子高校生ながらも、中身はまるっきり1960年代な主人公・アディソンのアンバランスさが面白いですよ。
意外にもたくさんの本を読んでいて、お気に入りの歌手デヴィッド・ボウイの名曲の数々も随所に使われています。
スマートフォンを持たない主義らしく、クラスメートやガールフレンドとの連絡手段は今では販売されていることさえ信じられないポケベルです。
1日の終わりには気になった身の回りの出来事をブログに書き込んで発信するのではなく、自分だけのためにビデオ日記へ記録しておきます。
当然ながらLINEの友達登録やいいねボタンにも、インスタ映えに対してもまるで興味を示すことはありません。
要領よく最先端のメディアを使いこなして遠く離れた場所にいる人たちと繋がることよりも、不器用でも目の前にいる身近な人と過ごす時間を大事にしているところに共感できるはずです。
10代の閉塞感に包まれた青年
親世代からは古い価値観や考え方を押し付けられて、担任の先生たちからは校則によって雁字搦めに縛られて。
幼い子供の頃から過ごしてきた地元の閉塞感や、学校生活に息苦しさを抱いている17歳のアディソン・シャクトの横顔がオープニングを飾ります。
そんなアディソンにとっての心のオアシスとなる、フィービー・ゼレニーの純真無垢さには癒されました。
カフェで一緒にコーヒーを飲んだりドライブに出掛けたりと、あくまでもピュアなお付き合いが微笑ましかったです。
時には独りで塞ぎ込みがちなアディソンを、しっかり者なフィービーが引っ張っていくパワーバランスも絶妙でした。
ふたりにとっては共通の友人である、ケビン・ブローダスの訃報が舞い込んでくることによって俄に暗雲が立ち込めていきます。
高校生探偵が真実に辿り着く
映画の序盤での長閑な青春ドラマからガラリと一変して、中盤以降はアップテンポな謎解きゲームへと突入していきます。
俄にやる気を出し始めて聞き込みから証拠集めに走り回る、アディソンの入れ込みようはさながら素人探偵のようでした。
高校生らしく友達以上恋人未満だったフィービーとのじれったい関係も、いつの間にか事件の謎を追い掛けるパートナーに変わっています。
真似事でしかなかったアディソンとフィービーの独自捜査が、警察でさえ見落としていた重大な手掛かりを手に入れていく展開が痛快です。
アディソンが敬愛して止まないデヴィッド・ボウイの言葉そのままに、何処へ向かっているのか分からないけど退屈しないことだけは確かでした。
真実から目を瞑る大人たち
親友の死を目の当たりにして怒りを爆発させるアディソンと、始めから諦めのような怠惰なムードを漂わせた刑事たちとのコントラストが印象的でした。
学校から理不尽極まりない停学処分を喰らいながらも、時には生命の危険に晒されながらも屈することのないアディソンの強い意志には感心させられます。
校長先生からシカゴ大学への裏口入学を条件として、事件から手を引くを強要されてしまうシーンは刑事ドラマ顔負けです。
言われるままに取引に応じてやす応じて真相から目を背けるのか、ケビンの敵討ちのために全てを失う覚悟で捜査を続けるのか。
重大な二者択一を迫られることになったアディソンの深い苦悩と、悩み抜いた末に下した決断には胸を打たれました。
こんな人におすすめ
犯人の名前が明かされて事件そのものは無事解決を迎えながらも、物語は単純なハッピーエンドを迎えることはありません。
何時までも続くかに思えていたアディソンとフィービーとの心地よい距離感にも、微妙な変化が訪れることになります。
青春時代の呆気ないほどの終わりとともに、大切なものを置き去りにしてしまったアディソンの後悔が何とも切ないです。
深い喪失感に苛まれながらも、アディソンがクライマックスで踏み出していった小さな一歩を応援したくなりました。
懐かしのJ-POPやポケットベルの呼び出し音に囲まれて学生時代を謳歌したであろう、アラフォー世代の方は是非みて下さい。
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