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キャスト・スタッフ
「悪夢探偵」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「悪夢探偵」は2007年の1月13日に劇場公開されている、塚本晋也監督によるサスペンスドラマになります。
2006年の12月22日に角川書店から刊行されているホラー文学を、原作者自身が書き下ろしたオリジナルシナリオによって映像化したものです。
不運な事故に見舞われた恋人への執着心が拳銃へと乗り移っていく「バレット・バレエ」や、抑圧された主婦の深い闇に迫る「六月の蛇」など。
俳優からナレーターまでを幅広くこなしている、1960年生まれで東京都出身の映画作家がメガホンを取りました。
千葉ファルムコミッションと横浜ファルムコミッションの協力を取り付けて、現地ロケを敢行している作品です。
夢の中へ出入りすることが出来る謎めいた探偵と、美しき女性刑事とがタッグを組んで事件解決へと挑んでいきます。
あらすじ
独り暮らしの年若い女性が、都内の自宅アパートで全身に無数の切り傷を受けた末に亡くなる事件が発生しました。
死体に残されていた幾つかの不可解な点に気が付いたのは、キャリア出身ながら敢えて現場勤めを願い出た刑事の霧島慶子です。
慶子は連続殺人の可能性を指摘しますが、あっさりと自殺として片付けようとする直属上司の関谷からはまるで相手にされません。
被害者の女性は常日頃から隣近所との付き合いもなく目撃証言も乏しいために、捜査は間もなく暗礁に乗り上げてしまいます。
同じような状況の女性の遺体が連続して発見されるようになった頃、慶子が紹介されたのは影沼京一という名前の青年です。
他人の夢の中に侵入して事件を解決するという話に半信半疑だった慶子でしたが、信じ難い光景を目の当たりにするのでした。
悪夢の中でも輝く俳優たち
他人の夢の中へ自由自在に出入りする主人公には、松田龍平の浮世離れしたイメージがぴったりと填まっていました。
素肌の上から身に纏っている黒いマントと、無造作に伸ばされた長髪も怪しげなムードを高める効果があります。
「In the future」や「Love 2000」に代表されるようなヒット曲に恵まれているミュージシャンのhitomiの、俳優デビューとなったのが今作です。
陰惨な連続殺人やグロテスクな悪夢を背景にしても、ヒロイン・霧島慶子が漂わせている華やかさは際立っていますね。
霧島のサポート役に徹している若宮刑事に扮した安藤政信や、口うるさく事なかれ主義の上司・関谷刑事役の大杉漣もいい味を出しています。
映画序盤でのゲスト出演的な扱いになりながらも、大石謙三役で存在感を放っている原田芳雄の名演は見逃せません。
嫌々ながらも名探偵
次から次へと巻き起こっていくミステリアスな事件の謎解きと、隠されている意外な真実に引き込まれていきます。
何よりも風変わりなのは主人公らしくない影沼のキャラクターで、愚痴ばかりを並べ立てて一向にやる気を見せることはありません。
「嫌だ嫌だ、もう辞めたい」が口癖になりやたらとネガティブながらも、きっちりと仕事だけはこなしてしまうところがユーモラスです。
理不尽な暴力に晒されても抵抗することもなく、不条理な世界に迷い込んでも在るがままに受け入れてしまいます。
周りの人たちが頭の中で考えていることを読み取る特殊能力に恵まれながらも、なるべくその力を使いません。
一見すると人生そのものを投げているような影沼ですが、ラストで訪れる微妙な心境の変化にも注目してみて下さい。
エリート警部の内面に迫る
サイコホラーとしてスピーディーに展開していきながらも、ヒロイン・霧島慶子の日常も静かに映し出されていきます。
キャリア警察官として順風満帆な道のりを歩んでいながらも、その横顔を見ると何処か物足りなさを覚えているようです。
嫌味な上役の小言を受けながす凛とした立ち振舞いや、殺人現場や男社会の中へも臆することなく飛び込んでいく強さが溢れていました。
警察庁からやって来たエリートに待ち受けている、現場一辺倒な叩き上げの刑事たちによる手荒い歓迎もリアルです。
いまいち仕事に遣り甲斐を持つことが出来ない慶子の葛藤には、働く女性であれば共感できるのではないでしょうか。
何事にも屈することなく数多くの試練を乗り越えていき刑事としても、ひとりの女性としても成長を遂げていく彼女の後ろ姿を見守ってあげて下さい。
夢の中に生きる人たち
主人公・影沼京一にオープニングから持ち込まれてくるのは、亡き父親とも因縁浅からぬ大石恵三からの依頼です。
昭和の面影を漂わせた雑居ビルの中にひっそりと佇んでいる、時の流れが止まったかのような部屋が幻想的でした。
生まれてくるはずだった娘への未練を抱きながから、死の間際まで孤独感に苛まれてきた大石の姿には胸が痛みます。
上っ面では父親を心配しながらも頭の中は遺産相続でいっぱいな、大石の息子たちの節操のなさには呆れてしまいました。
大石が下した予想外の決断とともに、最後まで傍観者としての立場を貫き通した影沼の冷徹さにも驚かされます。
生きづらさを抱えながら生きる人たち
伝言ダイヤルやインターネットの掲示板で自殺志願者を募るシーンからは、約10年前の社会における生きづらさを垣間見ました。
夢の中に安らぎを得ようとした大石恵三も、現実の世界に対して余りにも希望を見出だすことが出来なかったからでしょう。
真夜中に独りでガードレールに腰かけて、携帯電話の向こう側にいる見ず知らずの男性の気を惹こうとする少女が幼気です。
気がつかないうちに自分の居場所や他の誰かとの繋がりを求めてしまうのは、いつの時代でも変わることはありません。
そんなお互いが無関心になっていく都会の中で、若者たちの心の隙間に付け込むような悪質な犯行が夜の街を騒がし始めていきます。
ゼロの正体
無関係に思えていた被害者たちを結び付けていくのは、携帯電話の着信履歴に残されていた「ゼロ」という送信者です。
意味深なコードネームに込められている驚愕の事実と、更なるむごたらしい事件の幕開けに引き込まれていきます。
あくまでも科学的な捜査を信条とする「こっち」、常識に捕らわれることのない臨機応変な捜査を心掛ける「あっち」。
ふたつの正反対な視点を交錯させてひとつの真実を導き出していく、推理ドラマとしても斬新な味わいがありました。
予測不可能なゼロの行動パターンによって追い詰められていく慶子と影沼は、一か八かの賭けに打ってでます。
こんな人におすすめ
自らの信念と正義だけを信じて突き進んでいたはずの霧島警部が、終盤戦で打ちのめされる大きな壁が圧巻でした。
相も変わらずマイペースな影沼にも、家族の愛に餓えていた知られざる幼少期のエピソードが浮かび上がってきて切ないです。
ふたりの間に芽生えていた恋愛感情と言うよりは、共闘関係のような程よく保たれた距離感も心地よく映ります。
事件解決のご褒美として霧島が影沼ご馳走する、意外なほど庶民的なメニューには心温まるものがありました。
重苦しく眠れない夜が開けていくようなクライマックスと、心の傷を癒し過去から解き放たれたそれぞれの旅立ちが清々しいです。
フロイトの夢判断や精神分析を学んでいる心理学部に所属する学生の皆さんは、是非ともこの映画をご覧になってください。
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