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キャスト・スタッフ
「オーヴァーロード」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「オーヴァーロード」はジュリアス・エイヴァリー監督によって、2019年の5月10日に劇場公開されています。
犯罪者グループ内部の抗争に迫る「ガンズ&ゴールド」や、カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いた「Jerrycan」など。
クライムエンターテイメントから短編映画までを手掛けている、オーストラリア出身の脚本家・映画作家がメガホンを取ったアクションドラマです。
「スーパーエイト」や「ミッション:インポッシブル」シリーズなどを世に送り出した、J・J・エイブラムスが製作スタッフに加わりました。
アメリカ・テキサス州オースティンで開催された、第14回のファンタスティック・フェストでのプレミアム上映作品です。
第二次大戦中にナチス占領下のフランスに送り込まれたアメリカ軍落下傘部隊と、恐るべき怪物とがぶつかり合っていきます。
あらすじ
第2次世界大戦が大詰めを迎えた1944年、少数精鋭のアメリカ兵たちを載せた輸送機がフランスの小さな村へと向かっていました。
ナチスドイツによって支配されたこの地には、新型の生物兵器の開発を進めているという軍事機密施設があります。
道中で敵軍の猛攻を受けて不時着した際に本隊と逸れてしまったのは、エドワード・ボイスとルイス・フォードです。
ドイツ兵に見つかれば命はありませんが、幸いにしてフランス人のクロエと弟・ポの一家に助けてもらいました。
クロエの話ではこの村の外れにあった教会が軍によって押収されてしまい、地下には巨大な実験場が建設されているようです。
自分たちに課せられた任務とふたりへの一宿一飯の恩に報いるために、エドワードたちは危険を承知で施設への潜入を決行するのでした。
怪物と対峙する人間を力演
主人公のエドワード・ボイス上等兵を演じているのは、1988年生まれでイギリス・オックスフォード州出身の俳優ジョヴァン・アデポです。
オーガスト・ウィルソンの戯曲を実写化した2016年の「フェンス」では、父親に逆らう息子・コーリーの役で脚光を浴びました。
今作では鍛え上げられた肉体には似合わない、心優しいひとりの兵士の生きざまを巧みに体現していきます。
エドワードの戦友にして恐れを知らない猛者、ルイス・フォード伍長の役を務めているのはワイアット・ラッセルです。
そのブルーの瞳と金髪を見た途端に、父親のカート・ラッセルの面影が浮かんでくる方も多いのではないでしょうか。
グロテスクな化け物と暑苦しい男たちの中でも、クロエ役のマチルド・オリヴィエが清涼剤としての効果を発揮していました。
狂気の実験は今でも何処かで
ナチスのマッド・サイエンティストというと、アウシュヴィッツで極悪非道な人体実験を繰り返したヨーゼフ・メンゲレが有名です。
戦後は南米大陸を放浪し続けた末にブラジルで亡くなり、イスラエルの諜報機関の執拗な追跡を振り切りました。
日本でも太平洋戦争中に中国大陸での非人道的行為を繰り返した細菌部隊の隊長が、GHQに実験データを渡して裁判による訴追を免れたケースもあります。
自らの身に危険が迫った途端に、あっさりと他者の尊厳を踏みにじってしまう人間の弱さが本作品でも描かれていて考えさせられるはずです。
「ヒトラー1000年王国」や「不死身の兵士・アンデッド」といった誇大妄想も、簡単には笑い飛ばすことは出来ません。
白衣を身に纏って実験に没頭する科学者たちと、戦争にとり憑かれた現代の権力者たちに不気味な繋がりがありました。
変幻自在のストーリーとB級への讃歌
これまでにも数多くの話題作を手掛けてきたヒットメーカーのエイブラムスにしては、極力制作費をかけていません。
イギリスへの現地ロケを敢行して時代背景をリアルに再現した映像や、CGに頼ることなくスタジオセットにこだわり抜いているのも嬉しいですね。
豪快なミリタリーアクションかと思いきや静かな人間ドラマに、実録戦争映画かと思いきや荒唐無稽なゾンビものに。
異なるジャンルと趣向をおもちゃ箱をひっくり返したかのようにミックスさせつつ、二転三転していく予測不可でスピーディーなストーリー展開には引き込まれていくはずです。
如何にも「B級ムービー」などと揶揄されてしまいそうですが、思いの外細部まで作り込まれていて楽しめます。
自由気ままに取り散らかされているように見えた伏線も、クライマックスに向けてひとつずつ回収されていく演出も心憎いです。
始まりは空中戦
ドイツの制圧下に置かれたフランスの大地に、無数のパラシュート部隊が降り注ぐことで物語の幕が開けていきます。
ジョン・ウェイン主演の「史上最大の作戦」などでノルマンディー上陸作戦を見てきた世代からすると、いまいち物足りないかもしれません。
むしろ飛行機の中で兵隊たちが交わしている何気ない世間話や、それぞれが戦地へと赴くまでのバックグラウンドの方に目が行ってしまいました。
空飛ぶ鉄の塊にいとも容易く穴を空けてしまう、ドイツが軍事技術を結集させて完成した対空機関砲も迫力満天です。
激しい空中戦を辛うじて生き延びた兵士たちは直ぐ体制を立て直して、地上での極秘ミッションに参加しなければなりません。
戦時下でも優しさを忘れない彼女
幼い弟と病弱な叔母を守り抜くために、ドイツ兵に対しても恐れることなく立ち向かっていくフランス人女性・クロエが勇ましいです。
占領民という不利な立場と持って生まれた美しさから、理不尽な暴力に晒されてしまうシーンには胸が痛みました。
敵の敵は味方とばかりに、アメリカからやって来たエドワードやルイスをあっさりと自宅に匿ってしまう豪胆さもあります。
薄暗い屋根裏で息を潜めてひたすらに反撃のチャンスを窺うエドワードは、さながらゲシュタポの密告に怯えるアンネ・フランクのようです。
クロエの弟・ポールがドイツ軍に拐われてしまったために、恩義のあるエドワードたちは敵陣へと奪還に向かいます。
血湧き肉躍る戦い
極限状況下において人々の心の拠り所になるはずの歴史ある教会が、ナチスの秘密基地と作り替えられているのが何とも皮肉です。
施設内に響き渡る人間の悲鳴と血液が付着したビニールから、想像を絶するサバイバルの予感が高まっていきます。
研究施設内で開発された血清を投与されて、身体能力を飛躍的に高めた兵隊たちとのバトルがスリリングです。
人間の頃の名残りを残したモンスターたちには醜悪さよりも、不思議な滑稽さと一抹の物悲しさが漂っていました。
エドワードは密かに愛し始めていたクロエと生きることを選び、ルイスは最後まで軍人としての任務を全うして。
はるばる海の向こうから舞い降りてきたふたりの若いアメリカ兵の命運を、紙一重で分けた意外な存在も脳裏に焼き付きます。
こんな人におすすめ
激闘の末にようやく小さな村にささやかな安らぎが訪れつつも、事件の真相が闇へと葬り去られていくようなクライマックスが後味悪いです。
死の誘惑を乗り越えたエドワードとクロエたち姉弟の間に、血縁関係を越えた熱い絆が芽生えたことが僅かな救いでした。
歴史の過ちから目を背け続けて平和の有り難みを忘れかけている、現代に生きる我々への痛烈なメッセージも込められています。
往年の戦争映画の愛好家ばかりではなく、ごく最近のカルトホラーがお好きな皆さんも是非ともご覧になって下さい。
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