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「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」はレイフ・ファインズ監督によって、2019年の5月10日に劇場公開されています。
ジュリー・カバナフによって2008年11月11日にヴィンテージ出版社から刊行されている、ノンフィクション書籍「ヌレエフ:その人生」を映像化したものです。
ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」から、スティーヴン・スピルバーグ監督作「シンドラーのリスト」まで。
数多くの映画作家たちから重宝されている、1962年生まれでイギリス・サフォーク州出身の名俳優による監督3作目です。
実在するひとりのバレエ・ダンサーの波乱に富んだ半生に、当時の時代背景を反映させながら迫っていきます。
あらすじ
ルドルフ・ヌレエフが生まれて始めて母国のソ連から外に出たのは、東西の対立が深まりつつあった1961年のことでした。
既に国内ではバレエダンサーとして実績があったヌレエフには、海外公演を理由とすると簡単に出国許可が下ります。
はるばる海を越えてたどり着いたヌレエフが目の当たりにしたのは、芸術的にも政治的にも自由な空気感を漂わせたパリの街並みです。
すっかりパリが気に入ってしまったヌレエフでしたが、秘密警察の監視もあり期限内には出国しなければなりません。
滞在中に孤独感に苛まれていたヌレエフの心の支えとなってくれたのは、フランス人の女性クララ・サンです。
刻一刻と次の公演開催地であるロンドンへの出国期限が近づいていく中で、ヌレエフは自身の生涯を変えることになる重大な決断を下すのでした。
伝説のダンサーに成りきる
全てを捨てて躍り続けていく主人公ルドルフ・ヌレエフの生きざまに、オレグ・イヴェンコが迫真の演技でアプローチをしていきます。
ちょっぴり周りの人たちを見下したように浮かべている微笑みも、この人に掛かっては不思議と嫌みがありません。
演技の方は初挑戦となり戸惑うことも多かったそうですが、監督から投げ掛けられた「君はヌレエフ」という言葉が何よりもの励ましとなったそうです。
命がけでバレエに注いでいく何処までも純真無垢な情熱を、激しい身振りと静かな言葉で表現していて見応えがありました。
ヌレエフの亡命に一役買うことになるミステリアスな女性、クララ・サン役にアデル・エグザルコプロスが扮しています。
シリアからやって来て小説家のアンドレ・マルローと結婚したという、数奇な生涯という点ではヌレエフにも負けていません。
ファインズ監督自らもヌレエフの師匠プーシキン役で、若いふたりをしっかりとサポートしていて頼もしいです。
迫力のダンスシーン
主演に抜擢されているオレグ・イヴェンコを筆頭にして、本職のダンサーたちが披露するパフォーマンスを堪能することが出来ます。
鍛え上げられた肉体を存分に駆使してところ狭しと跳躍していく俳優たちには、ただただ圧倒されることでしょう。
ヌレエフの純粋さに惹き寄せられていくかのように集まってくる、他国のダンサーたちも個性豊かで人間性に溢れていました。
身に付けてきたそれぞれの技術を競い合っているうちに、いつの間にかライバルや友情を超越した関係を築き上げていきます。
スティーヴン・カンター監督のドキュメンタリー映画で有名なセルゲイ・ポールニンとの、ダンス対決も必見です。
一歩退いてその姿を見守る
伝記ドラマでありながら必要以上に主人公に感情移入し過ぎることなく、一歩退いた絶妙な距離感に好感が持てました。
走行中のシベリア鉄道の車内で母親が出産したという誕生秘話と、家族への愛を求めた幼少期の記憶には心温まります。
物心ついた時からの英才教育が鉄則なバレエ界からすると、ヌレエフがスタート地点に立ったのは11歳と意外なほど遅かったようです。
その遅れを取り戻すためにただひたすらに厳しいレッスンに明け暮れた、修行の日々も淡々と映し出されていました。
映画序盤から中盤にかけての緩やかな演出から一転して、後半はスパイ映画顔負けのスピーディーな展開へと突入していきます。
自分がいまいるポジションに満足することなく、次なるステージを目指して挑み続けていくヌレエフを応援したくなりますね。
まだ見ぬ世界を求めて
若干23歳してサンクトペテルブルクの名門キーロフ・バレエ団のトップダンサーにまで上り詰めた、ルドルフ・ヌレエフのパリへの旅立ちがオープニングを飾ります。
息苦しさの立ち込めた旧ソ連を飛行機の窓から見下ろした瞬間の、ほっとしたようなヌレエフの表情が印象深かったです。
初めて降り立ったパリの地でヌレエフの心を捉えたのは、オペラ座を始めとする公演会場だけではありません。
中心地の美術館から劇場に路地裏のカフェまでが目新しく、23歳の青年が永住したくなるのも充分に理解出来ます。
そんな浮かれ気味なヌレエフに影のように付いて回り疑惑の眼差しを注いでいる、ソ連国家保安委員会が何とも不気味な存在です。
生まれながらの自由人
せっかく憧れのパリに降り立ちながらも、その一挙手一投足に眼を光らせているKGB職員が気になって仕方ありません。
異国の地で揺れ動くヌレエフの内面を捉えつつ、時おり幼い頃の思い出やレニングラード時代のエピソードが語られていきます。
狭き門を突破してキーロフバレエ学院に入学しながらも、学校側の管理主義と真っ向からぶつかった6年前の気勢は衰えることはありません。
俗世間のありきたりな常識や価値観に従うことなく、自由気ままに生きることを多くの人々から求められているかのような生い立ちでした。
全身の血と肉が芸術で構成されているかのようなヌレエフに、愛国心や社会主義といった感情を植え付けるのは無理なのかもしれません。
そんな破天荒なヌレエフの良き理解者でもあり、生涯をかけて師と仰ぐこととなるプーシキンとの巡り逢いも忘れ難いです。
自由こそが何よりもの宝
次第に身の危険を感じていたヌレエフが、協力者となったクララと共に駆け込んでいくのがパリ郊外のル・ブルジェ空港です。
空港をパトロール中の警備員に「あなたが欲しいものは?」と聞かれた時に、「ただ自由だけ」と答えるシーンにはホロリとさせられました。
数々の名誉を勝ち取り20世紀最高のダンサーと称えられたヌレエフですが、細やかな幸せと平穏無事な日々の暮らしだけは手に入れることが出来ません。
何よりも大切にしていた家族との絆を捨ててまで、苦難の道のりを歩んでいくヌレエフの後ろ姿が忘れ難いです。
こんな人におすすめ
パリ到着から亡命を決意するクライマックスまでの僅か数日間が、濃密な時間の流れの中で綴られていました。
構想から完成までに20年の歳月を費やしたという、レイフ・ファインズの並々ならぬ思い入れも伝わってきます。
バレエの世界からはかけ離れている人たちでも、ヌレエフの人間的な魅力にスポットライトを当てたドラマとして楽しむことが出来るはずです。
ヌレエフのパリ滞在に関してはイギリスの国営放送でもドキュメンタリー番組になっていますので、日本での放映が待ち遠しいです。
いま現在バレエ教室に通っている皆さんばかりではなく、新しい何かにチャレンジしてみたい方も是非みて下さい。
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