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キャスト・スタッフ
「ガルヴェストン」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ガルヴェストン」はメラニー・ロラン監督によって、2019年の5月17日に劇場公開されているロードムービーです。
ニック・ピラゾットがスクリブナーズ出版から2010年の6月に刊行した、処女作「Galveston」が映像化されました。
美しき青年と年上女性との恋愛が官能的な「これが私の肉体」から、虐げられてきたユダヤ系フランス人とアメリカ人の復讐劇「イングロリアス・バスターズ」まで。
数多くの名監督によってヒロインに起用されてきた、1983年生まれでフランス・パリ出身の女優・モデルがメガホンを取っています。
クランクインは2017年の2月でアメリカジョージア州での主要撮影の他、アメリカ全土での現地ロケが敢行されました。
組織のトップに半旗を翻した暗殺者と、荒んだ生活を送っていた女性との逃走劇がスリリングなストーリーです。
あらすじ
反社会的勢力に雇われヒットマンとして数々の汚れ仕事をこなしてきたロイですが、このところは体調が優れません。
組織を束ねているスタンに相談してみると、このニューオーリンズでも1、2を争う腕利きの名医を紹介してくれました。
医師によるとレントゲン撮影の結果肺の中からは白い影が見つかって、治療は困難との診断が下されてしまいます。
すっかり自暴自棄となったロイは、その日を境にして今まで以上に危険なミッションを引き受けるようになっていました。
次第に命令を逸脱して暴走を繰り返していくロイに危うさを抱いていたスタンは、敵対する勢力とまとめて彼を厄介払いするつもりです。
スタンの裏切りに気がついたロイは、たまたま現場に捕らわれていた娼婦のロッキーを助け出すと彼女を連れ出して逃走を続けていくのでした。
決死の逃避行に臨むふたり
主人公のロイを演じているのは、1980年生まれでマサチューセッツ州出身の俳優ベン・フォスターです。
ジョナサン・ウィリアムズ・ヘンズリー監督の2004年作「パニッシャー」やブレット・ラトナー監督作「X-MEN:ファイナル ディシジョン」など、マーベルコミックの実写化には欠かせません。
今作ではアウトローの生きざまを貫き通しながらも、非情に成りきることが出来ない男の悲哀を表現していました。
外見は娼婦でありながら聖女のような心を持ち合わせている、ロッキーの役にはエル・ファニングがぴったり填まっています。
ブルーのビキニを身に纏って幼い妹の手を握りしめながら、波打ち際を歩く海水浴のシーンは話題になりました。
ロッキーの妹・ティファニー役で本作品に出演している、リリ・ラインハートも日本では無名ながらも魅力的な女優さんです。
危険過ぎるふたりの旅
物語の始まりはジャズの発祥の地としても有名なルイジアナ州ニューオーリンズで、時代設定は1988年になっています。
マルク・シュアランが作曲した音楽が、裏社会で息を潜めてきたロイとロッキーの解放を祝うかのような華やかさです。
オンボロの中古車を手に入れて遥か彼方まで延びていく広大なハイウェイを、気の向くままに駆け抜けていきます。
ロッキーが妹のティファニーを拾い上げて合流する場所はテキサス州のオレンジ郡で、平坦な地形がどこまでも続いていてこれといった観光スポットも目を奪われるような絶景もありません。
その土地ごとの空気感や人々の飾らない暮らしぶりを、現地に足を運んでいるかのようにリアルに感じることが出来ます。
他国への扉を閉ざすこともなく自由と寛容性を何よりも重んじていた頃のアメリカの風土が、今となっては懐かしいです。
旅の目的地であるテキサス州ガルヴェストンが近づいてくるに連れて、名残惜しいような気持ちが湧いてくるでしょう。
つかの間のロマンスを描く
孤高の暗殺者とどこか陰のある女性という組み合わせには、リュック・ベッソン監督が手掛けた「レオン」を彷彿とさせますね。
出演のふたりの俳優たちの細かな仕草と表情を手持ちのカメラで克明に追っていくので、すんなりと感情移入できます。
男女の微妙な価値観の違いやお互いの距離感を意識した情感あふれる演出は、如何にもパリジェンヌのロラン監督らしかったです。
道中では女性の方から積極的にアプローチを仕掛けながらも、幾度となく相手に拒絶されてしまうのが今の時代を反映していました。
「俺たちに明日はない」のボニーとクライドを引き合いに出すまでもなく、ふたりに待ち受けているのは悲劇的な別れしかありません。
刹那的に繰り広げられるロマンスに心踊らせてしまうのは、いつの時代どこの国でも男女を問わずに同じなのでしょう。
頭の中も肺も真っ白
いやに長引く咳を気にしていたロイが医師から衝撃的な事実を告げられるシーンによって、本作の幕が上がっていきます。
不死身のはずの殺し屋がいつの間にやら肺の病気に侵されていて、余命いくばくもないのが何とも皮肉でした。
自分自身の死の予感を目の当たりにすることによって、これまでに奪ってきた他者の生命の重さを痛感したのかもしれません。
少しずつ人間らしい感情が芽生え始めてきたロイは、組織のボスに逆らってまで見ず知らずの女性・ロッキーを救出します。
悪行の限りを尽くしてきた人間が本能的に善行へと目覚める瞬間を、ワンショットで鮮やかに捉えていました。
孤独を埋め合いつつ追っ手の影も
刻一刻と不治の病に蝕まれながらも、タバコからもアルコールからも縁を切ることが出来ないロイが不甲斐ないです。
立ち込めるタバコの煙や場末のバーで出されるどぎついカクテルの色が、旅の一向に重たく伸し掛かっていました。
行く先々で落ち込んでばかりで暗く成り勝ちなロイとロッキーにとっては、ティファニーの無邪気さだけが慰めになっていきます。
あくまでもティファニーを「年の離れた妹」と言い張るロッキーに対して、全てを悟りながらも深く追及しないロイが潔いです。
ふたりを取り巻いていた孤独感が薄れていくにつれて、少しずつ追跡者の足音も近づいてきて緊迫感が高まっていきます。
残酷な終着点
3人だけの静寂に包まれた時間が、組織によって送り込まれてきた非情な刺客によって俄に騒がしくなっていきます。
逃走中に立ち寄ったモーテルでの何気ない会話や、ロイとロッキーにとっては最後のデートとなってしまったダンスバーの店内が切ないです。
壮絶な銃撃バトルを圧倒的な戦闘力で切り抜けたロイに降りかかってくる、思わぬ落とし穴も心に残りました。
破滅的な旅の終わりの中にも、ロイとロッキーによって受け継がれた確かな命があったことが僅かな救いです。
こんな人におすすめ
美しく成長を遂げたティファニーと年老いたロイとのドラマチックな再会によって、本作品は幕を閉じていきます。
その場所にいないロッキーの存在が、血縁関係のないふたりを親子のように結びつけていてホロリとさせられました。
ジョセ・ジョヴァンニやアンリ・ヴェルヌイユを始めとする、旧き良き時代のフィルムノワールに慣れ親しんだ世代にはお勧めの1本です。
原作は東野さやかの翻訳によって2011年の5月9日に、早川ポケットミステリーから「逃亡のガルヴェストン」のタイトルで刊行されています。
王道のハードボイルド文学や捻りの利いた犯罪小説に興味がある読書家の皆さんは、是非とも手に取ってみてください。
みんなのレビュー
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