動画配信
キャスト・スタッフ
「僕の大事なコレクション」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「僕の大事なコレクション」は2006年の4月29日に、リーヴ・シュレイバー監督によって劇場公開されています。
ジョナサン・サフラン・フォアによって2002年4月16日に、ホートンミフリン出版から刊行されている処女作が映像化されました。
完全無欠のチェスマシーンに扮した「完全なるチェックメイト」や如何なる脅しにも屈しない編集長役で注目を集めた「スポットライト 世紀のスクープ」等、1967年生まれでサンフランシスコ出身の俳優が監督デビューを果たしました。
2005年10月にブラジルで開催されたサンパウロ国際映画祭では最優秀脚本賞に輝いていた他、2006年のパシフィック・メリディアンでも主演男優賞を獲得しています。
亡き祖父が残した写真とペンダントに導かれたユダヤ系アメリカ人の青年が、ウクライナを巡るロードムービーです。
あらすじ
ユダヤ系アメリカ人のジョナサンは、その昔に祖父のサフランがお世話になったというひとりの女性のことが気にかかっています。
そんなサフランも随分と前に他界していて、一族にとっては唯一の生き証人であった祖母も先日に亡くなったばかりです。
死の間際の祖母からジョナサンは、アウグスチーネというサインが書き記された1枚の古ぼけた写真を手渡されました。
写真の中にはウクライナの小さな村・トラキムブロドと、若き日のサフランと見知らぬ女性が並んで写っています。
トラキムブロドという地名とアウグスチーネという名前だけを頼りにして、飛行機へと乗り込んだジョナサンが目指すのはウクライナです。
現地の空港でジョナサンを出迎えてくれた通訳のアレックスと、彼の祖父でありドライバーを兼ねて雇われている高齢の男性と共に不安だらけの旅が始まっていくのでした。
賑やかな旅の一座に加わるのは個性派俳優からミュージシャンまで
記憶の旅へと繰り出しいく主人公ジョナサンのイメージには、イライジャ・ウッドがぴったりと填まっていました。
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでの心優しく勇敢なホビット、フロド・バギンズ役でお馴染みの人気の俳優さんです。
そんなジョナサンにとっては至れり尽くせりな旅の相棒、アレックスの役をユージン・ハッツがコミカルに演じていきます。
自身も2017年にウクライナで生まれていて、その末裔は楽器を片手にヨーロッパ大陸を放浪したロマ族だというのが運命的です。
パンクバンド「ゴーゴル・ボールデロ」のメンバーとして日本のロックフェスにも招かれているので、コアな音楽ファンは見覚えがあるのではないでしょうか。
アレックスの謎めいた祖父にしてジョナサンとも因縁浅からぬ、頑固老人の役を怪演しているボリス・レスキンも忘れ難いです。
スタートからゴールまで紆余曲折
祖父のサフランとアウグスチーネが佇んでいる写真の中の風景を目指して、ジョナサンの旅は幕を開けていきます。
大西洋を越えてはるばる辿りついた先は東欧の小国・ウクライナで、東ヨーロッパの伝統と旧ソ連時代の名残が渾然一体となった独特な国でした。
広々とした田園風景の中を延々と地平線の彼方まで延びていく一本道を、自由気ままにドライブしながら進んでいきます。
道中で立ち寄った中世キエフ公国の遺跡や、移動式遊園地でノスタルジックな雰囲気をたっぷりと味わって下さい。
風光明媚な街並みや自然ばかりではなくトーチカや砲弾に代表されるような、ナチスドイツに支配されていた頃の負の遺産も通りすぎていきます。
今の時代の平穏無事な日々が過去の戦争の繰り返しによって築かれていることを、ほろ苦く噛み締めることでしょう。
収集家ジョナサンの酔狂
音楽ダウンロードの全盛の時代に敢えてレコードを集めてみたり、電子書籍化の波に逆らうかのように古書店で稀覯本を買い漁ったり。
誰しもがひとつやふたつは、他人には決して理解できないような変わった収集癖を持っているのではないでしょうか。
主人公・ジョナサンには亡くなった人たちの思い出の品物を、ジップロックで保存して壁にピン止めする奇妙な癖があります。
祖父のペンダントから祖母の入れ歯まで、自室の壁一面を飾っているコレクションの壮観さには圧倒されるはずです。
旅先のレストランで出されたジャガイモを、食べることなくコレクションにしてしまうほどの徹底ぶりでした。
そんなジョナサンに勝るとも劣らないコレクターが、物語の後半には待ち受けているので楽しみにして下さい。
アメリカから東欧の小国へ
様々な民族が共存共栄するアメリカらしく、ユダヤ人一家の生活ぶりにもそれほどマイノリティとしての苦悩はありません。
今際のきわにある主人公ジョナサンの祖母が大切に握りしめている、ダビデの五芒星が誇らしげに輝いていました。
大好きだった祖父の若き日の記憶を焼き付けた1枚の写真に誘われるかのように、一族のルーツを巡る旅が始まっていくのが面白いです。
ぼろぼろになった写真の裏に殴り書きされた「アウグスチーネ」のサインと、祖父との因縁も気に掛かります。
初めて訪れたウクライナの地を見渡したジョナサンが、どこか懐かしそうな表情を浮かべていているのが印象深かったです。
ぶらり旅のなかにも喜怒哀楽あり
やたらとフレンドリーでアメリカのサブカルチャーに詳しい観光ガイド、アレックスとの旅の時間は退屈することはありません。
獰猛な飼い犬にシナトラファミリーの人気歌手の名前をつけてしまう、投げやりネーミングセンスには笑わされました。
「目が悪い」と愚痴を溢しながらも巧みなハンドル捌きを披露している、アレックスの祖父も胡散臭かったです。
お気楽な3人と1匹も時おり地元の人たちからの理不尽な歓迎を受けたり、第2次世界大戦下の爪痕を目の当たりにもして良いことだけではありません。
美しいひまわり畑の中にひっそりと建てられた一軒家では、ジョナサンたちは思わぬ人との対面を果たすことになります。
終着点で巡り逢う
後先考えずに行動してしまうアレックスの祖父に振り回されたり、方向音痴で地図の読めないアレックスのせいで迷子になったり田舎道でガス欠になったりと何かにつけてトラブル絶えません。
ようやく目的地へと到着したジョナサンが知ることとなった、サフランとアウグスチーネとのロマンスが切ないです。
更にはアレックスの祖父とサフランたちとの意外な繋がりまでが、60年以上の時をさかのぼって明かされていく展開がドラマチックでした。
不条理な暴力によって引き裂かれていった若い男女の無念さや、母国や民族の誇りを捨て去った後悔は決して消えることはありません。
村の外れをただ静かに流れていく小川と、ほとりに佇んでいる虐殺の記録を刻みつけた慰霊碑が心に残ります。
こんな人におすすめ
余りにも残酷な真実を直視することが出来ずに、自らの生命を絶ってしまったアレックスの祖父の決断が痛切です。
それとは対照的に平和への祈りを胸に抱いて、それぞれの日常へと帰っていくジョナサンやアレックスなど次の世代には期待できそうでした。
家族や友人を始めとする身近な人との別れを経験した皆さんには、是非とも見て頂きたい映画になっています。
原作は日本でも近藤隆文の翻訳によって、ソニーマガジンズ社から2005年に「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」のタイトルで刊行されています。
写真やイラストにデザインまでこだわり抜いた1冊になっていますので、普段は活字に縁がない方も読んでみて下さい。
みんなのレビュー
「僕の大事なコレクション」を
布教しちゃってください!
おすすめのポイントを
自由に紹介してください!