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「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」はニキ・カーロ監督によって、2017年の12月15日に劇場公開されています。
ダイアン・アッカーマンによって2007年に刊行されている、ノンフィクション書籍「THE ZOOKEEPER’S WIFE」を映像化したものです。
母国の先住民族の歴史に光を当てた「クジラの島の少女」や、全ての働く女性にエールを送る「スタンドアップ」等。
民間伝承から社会的な話題までを取り上げている、1967年生まれでニュージーランド出身の脚本家・プロデューサーがメガホンを取りました。
本作品の舞台となったワルシャワで2017年の3月にワールドプレミアム上映された他、カリフォルニア州のサンノゼで開催されたシネクエスト映画祭でも高い評価を得ています。
戦時下において自分たちの財産と動物園を人道的支援のために捧げた、実在する夫婦の生きざまを描いたヒューマンドラマです。
あらすじ
ワルシャワ動物園を運営しているのは園長のヤン・シャヴィンスキと、彼の妻で飼育係として働くアントニーナです。
客足の方は順調に伸びていましたが夫婦にとっては、ドイツ軍のポーランド上陸が気掛かりになっていました。
1939年9月に入るとその不安はズバリ的中して、アーリア人種による理想国家の建設を掲げるヒトラーによって国内は戦禍に包まれていきます。
ヤンは妻子だけでも田舎に疎開するように促しますが、動物園を守り抜くことを心に決めたアントニーナは動こうとはしません。
更には園内を緊急時における隠れ場所として提供して、迫害を受けていたユダヤ人の救出活動に加担し始めます。
アントニーナたちの不穏な動きを察知したドイツ軍の関係者によって、動物園は開園以来最大の危機を迎えることになるのでした。
逃げないヒロインを鮮やかに体現
歴史の流れに立ち向かっていく主人公のアントニーナ・シャヴィンスキを演じているのは、ジェシカ・チャステインです。
アミ・カナーン・マン監督のサスペンス「キリング・フィールド」では、事件の真相究明にひた走る刑事の役を。
ジョン・マッデン監督の2006年作「女神の見えざる手」では、銃規制法案の成立に奔走するロビイストの役を。
強靭な意志を宿した眼差しは数多くの名監督からもお墨付きで、正義のヒロインにはぴったり填まっていますね。
開戦と同時に亡命を主張する夫に向かって彼女が切り返す、「人は不安だとすぐ逃げたがる」というセリフが心に響きました。
ちょっぴり弱気な夫・ヤンの役を務めている、ヨハン・ヘルデンベルグも単なる引き立て役では終わりません。
アントニーナの言葉に後押しされるかのように、物語の後半ではレジスタンス運動に飛び入り参加する勇ましい一面も見せています。
檻の中から自由を求める
厳重に張り巡らされたナチスドイツの監視の眼を、アントニーナたちは知恵と勇気を振り絞って突破していきます。
園内に養豚場を作ったり突如として絶滅危惧種のバイソンの繁殖を始めたりますが、あくまでも目眩ましでしかありません。
真の目的は動物たちの餌として大量に運び込まれてくる廃棄野菜のコンテナの中に、ユダヤ人を匿って輸送することです。
身分証明書の偽造に手を貸したり秘密の地下室を利用したりと、あの手この手で当局の追及を逃れていきます。
指名手配中の政治犯の髪の毛を染色して国外脱出させるシーンには、スパイ映画のような見応えがありました。
普段は動物の移送用として敷地内に停まっているトラックにも、意外な場面で活躍が用意されていますので注意して見てください。
爆音と動物たちの悲鳴
日に日に激しさを増していくドイツ軍の空軍によって、ワルシャワの街中へと1頭の象が脱走していまう場面が衝撃的でした。
その直後に通報を受けて現場まで駆け付けてきた兵士によって、無情にも撃ち込まれてしまう1発の弾丸が痛切です。
30代から40代にかけての人たちが見ると、小学生の頃に国語の時間に習った土家由岐雄の「かわいそうなぞう」を思い出してしまうのではないでしょうか。
この童話は太平洋戦争中に軍部からの命令によって、殺処分が下された上野動物園の象実話が元になっています。
日本から海を越えて遠く離れた東欧の小国にも、トンキーとワンリーの悲劇があったことを考えさせられるはずです。
人間たちが始めた身勝手な戦争によって罪のない動物たちの命が奪われてしまうのは、いつの時代に何処の国でも同じなのかもしれません。
開門と同時に彼女の1日が始まる
アンティーク調の動物園の門前で開園を今か今かと待ちわびている、大勢の地元民たちや観光客がオープニングを飾ります。
飼育員のイエジクとひとりひとりの来園客と挨拶を交わしながら、丁寧にお出迎えをするアントニーナ・シャヴィンスキが素敵です。
自転車に乗ってブロンドの髪の毛を靡かせながら、颯爽と早朝の見回りをするその後ろ姿も魅力あふれていました。
鋭い牙を剥き出しにて雄叫びを上げるカバや、巨体を揺るがしながら接近してくる象に対しても臆することはありません。
皆同じように見える園内の動物たちに対しても、1匹1匹違った名前を付けて呼び掛ける様子にも好感が持てます。
高まる不協和音
晩餐会でピアノを弾くことになったアントニーナが、ナチス式行進曲として有名なドイツのワルツをリクエストされる場面が印象的でした。
パデレフスキやショパンに代表されるような高名な音楽家を輩出して、自由と芸術を愛するワルシャワにも刻一刻と戦争の影が迫っていることが分かります。
高名な動物学者でありながらヒトラーの思想に盲目的に心酔している、ルーツ・ヘックが何とも薄気味悪かったです。
表向きはワルシャワ動物園の希少な動物たちを保護するという名目で接近してきますが、決して油断は出来ません。
挙げ句の果てには既婚者であるアントニーナに向けて、あからさまにアプローチをしてくる厚かましさには呆れてしまいました。
戦いの終わりと平和への光
遂にはワルシャワ全域が戦場と化していき、ユダヤ人であろうとスラブ系ポーランド人であろうと全国民が死の恐怖へと晒されていきます。
反乱軍に関わってきたヤンも銃撃を受けた末に収容所送りとなってしまい、残されたアントニーナは究極的な選択を迫られることになりました。
夫の身の安全と引き換えに鼻持ちならないドイツ人動物学者の要求を受け入れるのか、夫婦の愛を貫き通すのか。
思い悩んだ末に彼女が下した決断と、第2次世界大戦の終わりと共にようやく訪れる最愛の人との再会が感動的です。
こんな人におすすめ
重いテーマが扱われていて時には暗くなりがちなストーリーですが、可愛らしい動物たちが多数登場して癒されます。
今でも70年前と変わることなく開園を続けているという、ワルシャワ動物園をいつかは訪れてみたくなりました。
動物園巡りがお好きな皆さんや水族館に足を運ぶ機会が多い方たちは、是非ともこの作品をご覧になって下さい。
原作は日本でも青木玲の翻訳によって、2009年の7月4日に亜紀書房のノンフィクション・シリーズから刊行されています。
東ヨーロッパの歴史や第2次大戦中の史実にスポットライトを当てた本に興味がある、読書家にはお勧めの1冊です。
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「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」を
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