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「ベン・イズ・バック」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ベン・イズ・バック」は2019年の5月24日に、ピーター・ヘッジズ監督によって劇場公開されています。
いがみ合っていた母と娘が感謝祭を通じて結ばれていく「エイプリルの七面鳥」や、子宝に恵まれない夫婦に思わぬ贈り物が舞い降りる「ティモシーの小さな奇跡」等。
戯曲の執筆からプロデュース業までを多才にこなす、1962年生まれでアイオワ州ウェストデモインズ出身の脚本家がメガホンを取りました。
2017年12月クランクインを迎えて、ガーナービルやハベストローを始めとするニューヨーク州内の主要都市でロケを敢行しています。
2018年9月開催のトロント国際映画祭でのワールドプレミアム上映作品になり、ベルリンの慈善事業グループ「平和のための映画」からも最優秀作品賞を贈られました。
危険な薬物に手を染めていく息子と、彼の更正を願う母親との愛憎半ばする関係を描いたヒューマンドラマです。
あらすじ
違法な薬物に溺れて自堕落な暮らしを送っていたベン・バーンズは、治療と就労を支援する施設に収用されることになりました。
それから数カ月ほど経過したある日の朝に、バーンズ一家がクリスマス・イブを一緒に過ごすために実家に集まっているとひょっこりと顔を出したのはベンです。
施設から特別に外出許可を貰ったともっともらしく説明しますが、これまでにも迷惑をかけられっぱなしだった妹のアイヴィーはいい顔をしません。
母親のホリーが一日中付きっきりでベンの行動を監視をすること、医療機関へ行って薬物反応検査を受けること。
ふたつの約束をしっかりと守ることを条件に、しぶしぶながらも家族はベンが実家に滞在することを認めます。
日中はぎこちないながらも一家団らんを楽しんでいましたが、夜になって教会から帰ってきたホリーたちは家の中の異変に気が付くのでした。
母子の葛藤を熱演
母親としての使命感に燃えるヒロイン、ホーリー・バーンズにはジュリア・ロバーツのイメージがぴったりと填まっていました。
いい年をしてホリーを困らせてばかりな息子・ベンの役に、1996年生まれでブルックリン出身のルーカス・ヘッジズが扮しています。
本作品の監督とは実の親子であるだけに、トラブルを起こしながらも見放すことが出来ないようないとおしさが涌いてきますね。
ジョエル・エドガートン監督作「ある少年の告白」では、ニコール・キッドマンの息子役に抜擢されています。
名だたるハリウッドセレブを目の前にしても物怖じしない大胆不敵な演技力は、父親ゆずりなのかもしれません。
今作でも主演のジュリア・ロバーツと真っ向から向かい合い、時には彼女を上回るほどの確かな存在感を放っていていました。
聖なるよるのそれぞれのドラマ
静かに明けていくクリスマス・イブの朝から日付が変わる真夜中までという、限られた時間の中で濃密なドラマが描かれています。
ベンの実家近くにある小さな教会では朝早くから地元民が集まって、クリスマスイベントのリハーサルが行われていました。
バザーの準備や聖歌隊の最終打ち合わせで慌ただしくなる中でも、あくまでも敬虔な気持ちを忘れない様子がこの地方ならではですね。
そんな聖なる夜にまるっきり似つかわしくないのが、以前にクリスマス当日に悪乗りした挙げ句に大騒ぎを起こしたベンです。
すぐさまに通報されて施設まで連れ戻されると思いきや、意外にもホリーたちは「最後のチャンス」を与えます。
異端者としてあっさりと排除するのではなく、人間の良心を信じるのもクリスマスの醍醐味なのかもしれません。
アメリカの病巣にメスを入れる
慢性的な薬物依存性患者が幅広い世代へと広がっている、いま現在のアメリカの深刻な現状を垣間見ることができます。
もともとは健康的なスポーツマンだったベンが転落するきっかけとなったのは、試合中に負った大怪我が原因でした。
痛み止の代わりとして刺激性の強い医薬品を使用しているうちに、麻薬の常用にまでエスカレートしてしまうのが恐ろしいです。
薬物乱用が高校生の間にまで広がっていき、その仲介者が教師であったと明かされる後半のオチは衝撃的でした。
軽い気持ちから個人的に薬物を売り買いしているうちに、いつの間にか反社会的勢力の裏ビジネスに加担してしまう可能性もあります。
その一方では一度道を踏み外した人たちをサポートする、自助グループのような存在も劇中では分かりやすく説明されていました。
ただ罪を憎んで糾弾するばかりではなく、社会全体で問題を共有する重要性についても考えさせられるストーリーです。
聖夜の招かれざる客
オープニングを飾るのは夜明け前の静寂に包まれている、ニューヨーク郊外にある小さな一軒家の佇まいです。
パッと見るとごく普通のアメリカの中流家庭にも映りますが、それぞれがちょっぴり複雑な事情を抱えています。
幼い妹ふたりはクリスマスが楽しみで仕方ありませんが、お年頃のアイヴィー・バーンズは家族よりも友だちと一緒に行きたそうでした。
父親のニールは母・ホリーにとっては再婚相手であるために、アイヴィーたちと直線的な血の繋がりはありません。
夜のメインイベントまでに義理の娘たちと何とか打ち解けようとする、ニールのひた向きな努力が涙ぐましいです。
バーンズ・ファミリーにとっては最大の悩み事である、ベンの登場からは否応なしに不吉な予感が高まっていきます。
妹たちの不信感と母の信頼
久しぶりの再会にも関わらず妹のアイヴィーや、義父・ニールがベンに向ける疑り深そうな眼差しには胸が痛みました。
まとまった現金や貴重な宝石類を、こっそりと安全な隠し場所へ移動してしまうシーンにも顕著に現れています。
それとは対照的に産みの親としてのホリーの大いなる愛は、いつ如何なる時にあっても微塵も揺らぐことはありません。
庇ってくれるのがホリーひとりだけでは何かにつけて肩身の狭いですが、犬のポンスもベンの頼もしい味方になってくれます。
ふさふさとした真っ黒な毛並みに覆われたケアンテリアですが、気まずい雰囲気を和ませてお役ごめんではありません。
過去には薬物の多量摂取で死にかけたベンを救っていて、終盤にも予想外の活躍の場が用意されていてビックリです。
悪そうなやつは昔の友だち
かつての悪友の姿を遠くからチラリと目撃しただけで、激しく動揺するベンの繊細な内面が伝わってきました。
高校時代にお付き合いしていた彼女・マギーの家族からも恨まれているために、迂闊に外を出歩く訳にもいきません。
以前から繰り返し借金を重ねていてそのまま知らん顔をしていた、麻薬密売人のクレイトンからの襲撃を受けるのは自業自得でしょう。
腹いせに拐われた愛犬・ポンスのためにクレイトンのアジトへ単身乗り込んでいくなど、心の底に人間らしい優しさが残っていて安心させられます。
こんな人におすすめ
またしてもポンスとホリーのお陰で辛うじて一命を取り留めたベンでしたが、社会復帰への見通しは立っていません。
そう簡単には薬物の誘惑を断ち切ることが出来ないという、残酷な現実が突き付けられるエンディングでした。
瀕死の状態でベンが発見された町外れの廃屋に、次第に射し込んでくるクリスマスの光に僅かな希望を感じます。
しばらく実家から足が遠のいている皆さんや、家族と疎遠になっている方たちは是非ともこの1本をご覧になって下さい。
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