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キャスト・スタッフ
「パリの家族たち」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「パリの家族たち」はマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督によって、2019年の5月25日に劇場公開されています。
一度は学校からドロップアウトした生徒たちを型破りな教師が迎え入れる「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」や、イスラム過激派組織によるティーンエイジャーたちへの洗脳の実態を暴いた「ヘブン・ウィル・ウェイト」など。
教育問題から紛争地域までを取り上げている、1963年生まれの映画プロデューサーがメガホンを取っています。
大統領府とエマニュエル・マクロン大統領の全面的なバックアップを取り付けて、エリゼ宮での現地ロケが実現しました。
大統領からシングルマザーまでパリで働く女性たちの生きざまを通して、多様化する母親像を描いた群像ドラマです。
あらすじ
小児科医として毎日のように子供たちの治療にあたっているイザベラでしたが、自身の出産については消極的です。
イザベラの妹・ナタリーは教え子との不適切な関係を惰性的に続けながら、自由気ままなシングルライフを送っていました。
ナタリーの妹・ダフネはジャーナリストとして仕事に追われていて、思春期真っ只中に突入した娘や息子との関係が上手くいっていません。
ダフネのふたりの子供たちの面倒を見ているのは、ベビーシッターのテレーズでしたが健康面に不安を抱えています。
テレーズの娘・アンヌはフランス史上初となる女性大統領の座に就きましたが、支持率の大幅な急落に悩まされてばかりです。
5月を迎えたパリの中で、女性たちはそれぞれの人生における重大なターニングポイントに直面していくのでした。
強く美しい母を体現
一国の舵取りを任されつつ母親としても成長していく、ヒロインのアンヌをオドレイ・フルーロが演じています。
「最強のふたり」ではエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ監督、「屋根裏のマリアたち」ではフィリップ・ルゲイ監督。
名だたる名監督からヒロインに抜擢されてあて、今作でもシャール監督に3度のシナリオ書き直しをリクエストしたほどです。
ダフネ役のクロチルド・クロはクランクインの1週間後に、足を骨折するというアクシデントに見舞われました。
急遽キャラクター設定を変更して、松葉づえをつきながら撮影を続行したという彼女のプロ意識には頭が下がりますね。
「ヴァンドーム広場」や「愛を綴る人」を始めとする監督作品で有名なニコール・ガルシアが、舞台女優のアリアン役で出演しています。
前作「奇跡の教室」でも鮮烈なデビューを果たしたノエミ・ルムランが、花屋の店員・ココ役で女優として披露するステップアップも必見です。
何気ないパリの街並みから国政の中枢へ
ココが働いているパリの街角に佇むフラワーショップの、店頭ディスプレイに並べられた季節の花々が美しさ溢れていました。
このお店から程近いサントノレ通りは中世ヨーロッパの時代に遡るほど歴史があり、パリ市内を東西に走っています。
サントノレ通りをセーヌ川の右岸沿いに歩いていくとたどり着くのが、フランス大統領官邸があるエリゼ宮です。
シャール監督が2016年に発表した「ヘブン・ウィル・ウェイト」は、マクロン大統領のお気に入りの1本でもあります。
実際にエリゼ宮の中庭とロビーの使用許可を得て撮影されたショットが、劇中でのアンヌ大統領の堂々たる姿に花を添えていました。
大統領執務室や官邸の住居エリアのインテリアにも、女性らしいこだわりが感じられますので注目して見てください。
花の都の真ん中で母の日
日本では母の日と言えば5月の第2日曜日ですが、フランスでは2週間遅れの5月の最終日曜日が充てられています。
定番商品のカーネーションに限らずに色どり豊かな花が花屋の店先を賑わせていて、ピンクの紫陽花も珍しくありません。
モンマルトルのカフェでは店員がコウノトリのコスプレをしてコーヒーを運んでいるなど、サービス精神旺盛ですね。
近頃ではダフネの子供たちが通っている学校のように、母の日のお祝いイベントを廃止する動きもちらほらです。
父子家庭から同性カップルまで生徒たちの家庭環境も少々訳ありのようで、何かにつけて気を遣わなければなりません。
「お母さんありがとう」ではなく「良い母の日を」をというメッセージにも、この国の多様性を垣間見ることが出来るでしょう。
記憶を失いつつある母と3通りの道を行く姉妹
長らく独り暮らしを続けながらも、近頃では認知症気味なジャクリーヌのぼんやりとした表情がオープニングを飾ります。
若い頃は好き勝手に振る舞って周りを困らせていたジャクリーヌも、さすがに記憶力の低下と肉体的な衰えには勝てません。
ジャクリーヌの3人の娘たちがこれまでに辿ってきた道のりも三者三葉で、まさに今現在のパリの縮図のようでした。
結婚後も夫との間に子宝に恵まれない長女のイザベラ、独身で大学教授としての充実したキャリアを築き上げてきた次女ナタリー。
ジャーナリストと家庭のふたつを手に入れたはずの三女・ダフネも、決してパーフェクト・ウーマンではありません。
職業と母親業のどちらかひとつを迫られることなく、無理なくふたつを続けることが出来るフランス社会の生きやすさが素敵です。
家族の形もそれぞれ
時代と共に移り変わっていく家族の在り方が、個々のバックグラウンドを掘り下げながら映し出されていきます。
ダフネのようにシングルマザーとして悩みながらも、ふたりの子供たちと向き合っていく姿には勇気を貰えるはずです。
花屋の店員・ココのように未婚でも子供を産む決意をする女性もいれば、イザベラのように結婚していても産まない女性もいます。
ココの叔父であり花屋を切り盛りしている店主が、性的マイノリティとして生きることを選んだ若き日のエピソードも印象的です。
子供を持つことを押し付けるような旧弊な風潮もなく、子供を持たない選択肢も尊重されていて共感できました。
大統領でもあり母でもある
産休明けの重たい身体ながらもながら、大統領としての責務を果たそうとするアンヌの強い意志が伝わってきました。
政治の世界であれ母親業であれ自らがやるべきことを理解して、黙って取り組んでいる女性たちが確かにいます。
アンヌの奮闘ぶりを陰ながらサポートするために、育児休暇を取得した夫・グレゴワールの存在も心強いです。
ファースト・レディならぬファースト・ジェントルマンの出現が、政界に一石を投じるきっかけになるのかもしれません。
こんな人におすすめ
母としても政治家としても成長したアンヌ大統領のインタビューが生放送で国民に届けられることによって、それぞれが小さな一歩を踏み出していきます。
相も変わらずにお気楽な日々を過ごしているように思えていた3人姉妹の母親が、高齢者向けの施設へと入所するほろ苦い顛末もサラリと描かれていました。
登場人物の多さと目まぐるしく切り替わっていくカメラワークに、少々戸惑ってしまう方もいるかもしれません。
その分自分の境遇とそっくりなキャラクターがひとりは見つかるはずですので、感情移入しながら鑑賞してください。
子育ての真っ只中でお疲れ気味なお母さんや、これから母親になろうとしている女性の皆さんにはオススメな1本です。
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