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キャスト・スタッフ
「オン・ザ・ミルキー・ロード」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「オン・ザ・ミルキー・ロード」はエミール・クストリッツァ監督によって、2017年の9月15日に劇場公開されています。
「パパは、出張中!」や「アンダーグラウンド」など、メガホンを取ったのは家族愛から政治批判までの幅広いテーマを取り上げている鬼才です。
セルビア・イギリス・アメリカの3カ国の合同製作で完成に漕ぎ着けて、ユーロピクチャーズ社の配給によって世界各国で公開されました。
2016年9月開催のヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアム上映された後に、金獅子賞にノミネートされています。
戦争によって偶然にもめぐり逢ったミルク売りと花嫁が辿っていく、数奇な道のりを追ったファンタジードラマです。
あらすじ
都会の音楽学校のピアノ科を卒業したコスタはミュージシャンを目指していましたが、戦争勃発によってその夢を断たれ故郷の田舎町へ帰ります。
敵の兵士によって父親が斬首される現場をコスタが目の当たりにしたのは1993年のことで、それ以来人が変わったかのように無口になっていました。
弟は精神的なバランスを失って今でもまだ閉鎖病棟で入院中で、コスタ自身も村人たちからは変人扱いされています。
周囲の雑音を気にすることなく、近所で酪農に携わっているミレナから受け取った牛乳の配達に追われる毎日です。
やがてコスタが住んでいる村に隣国からの軍勢が迫りくる中で、ローマから避難してきたという花嫁が現れます。
ミレナの兄・ジャガとの結婚式を間近に控えてはいますが、コスタと彼女はお互いに心惹かれていくのでした。
冒険に繰り出す名優たち
歴史の荒波に対しても敢然と立ち向かっていく主人公・コスタの役を、クストリッツァ監督自身が演じていきます。
名前と過去を捨てたミステリアスなヒロインに扮しているのは、イタリアの女優さん・モニカ・ベルッチです。
「恋愛マニュアル」シリーズ3部作のような親しみやすさから、「007 スペクター」でのボンドガールのような妖艶なイメージも活かしていました。
コスタへの報われることのない想いを抱き続けている、ミレナの役をスロボダ・ミチャロヴィッチが務めています。
単調極まりない田舎暮らしに物足りなさを覚えているかのような、気だるげな眼差しが何とも色っぽい女優さんです。
ミレナの兄に当たるジャガの役にキャスティングされている、ミキ・マノイロヴィッチもいい味を出していました。
クストリッツァ作品への出演は1995年の「アンダーグラウンド」以来21年ぶりとなりますが、相も変わらないくせ者ぶりを披露しています。
想像力を膨らませるシナリオと音楽
3つの実話からインスパイアされたストーリーの中に、古今東西の神話や伝説がふんだんに盛り込まれています。
村の検問所には「和平履行部隊」の名目を掲げて駐留している、多国籍軍の兵士たちが銃を構えていて物々しいです。
過去の作品でも旧ユーゴ諸国の受難を告発してきたように、超大国の思惑に振り回される小国の怒りが込められていました。
イタリア人の母親とセルビア人の父親の間に生まれた花嫁の逞しさは、セルビア系の父とイスラム系の母を持つ監督自身の誇りでしょうか。
今の時代に社会の中でマイノリティーとして謂れのない差別を受けている人たちへ、励ましのメッセージを贈っていました。
ロックバンド「ノー・スモーキング・オーケストラ」でリズムギターを担当しているクストリッツァ監督らしく、今作でも音楽にこだわりがあります。
息子のストリボール・クストリッツァが手掛けたサウンドトラックも、ドラマチックな物語に花を添えました。
鳥と獣と神々の使いたちの競演
多種多様な動物たち次から次へとが登場して、人間の俳優顔負けの名演技を披露していきます。
オープニングを飾るのはガチョウの群れで、石畳の道路を隊列を乱すことなく行進する様子が可愛いらしかったです。
時速300キロで遥か上空を飛び交うハヤブサには、クロアチアからやって来た射撃の名手である大尉でも仕留めることは出来ません。
ヘリコプターに真正面か、体当たりを喰らわせて、フロントガラスを粉々にしてしまう獰猛さには圧倒されるでしょう。
その一方では口笛を吹きながら木琴を弾いていたコスタの右肩にすり寄ってくる、人懐っこさも持ち合わせていました。
コスタがロバに跨がって配達をしている時に、溢れた牛乳を飲みに1匹のニシキヘビ身をくねらせてが近づいてきます。
コスタが言うには蛇は幸運の使いだそうで、古来から家の守り神とされてきた日本とも不思議な縁を感じますね。
命の雫をお届け
国境沿いで絶え間のない武力衝突が繰り返されている、とある小さな田舎町の片隅から物語は幕を開けていきます。
そもそも誰が何のために始めた争いなのか説明できる者はいなく、戦局の行方や勝ち負けさえはっきりしていません。
極限状況下においても朝早くから家畜の世話をして、日が暮れるまで農作物を育てる地元の人たちのストイックさに胸を打たれました。
酪農一家の住居スペースの中に設置されている、巨大なゼンマイ仕掛けの時計が奏でる不協和音も気になります。
一家によって端正込めて造られたミルクを受け取って、銃弾が雨あられと降り注ぐ中を配達するコスタが勇ましいです。
勝利の宴と平和への号砲
最前線から生還してきた伝令兵によって休戦の署名が伝えられて、つかの間の平和が村中を駆け巡っていきます。
軍楽隊によるトランペットの演奏あり、ドレスアップしたミレナの華麗なるダンスあり、村人全員参加の大合唱あり。
飲めや歌えやの楽し気なドンチャン騒ぎの裏側で刻一刻と進行していく、花嫁の引き渡し交渉がスリリングです。
村を守るために花嫁を差し出そうとする交渉人、花嫁とジャガをくっくけて自分はコスタと結婚したいミレナ、ジャガとの結婚が決まりながらもコスタのことが気になる花嫁。
多くの人物のそれぞれの思惑が複雑に絡み合っていく中で、愛と自由を守り抜くため放たれた1発の銃弾が衝撃的でした。
流浪のふたり
全てを投げ捨ててふたりだけで生きることを決意したコスタと花嫁が、村を飛び出していくシーンが解放感に溢れていました。
生まれ育った土地を離れることへの漠然とした不安以上に、まだ見ぬ世界への並々ならぬ憧れが伝わってきます。
村外れにポツンと佇んでいる井戸、コスタと花嫁の疲れを癒す小屋の側に沸き上がる池、追跡者から逃れるためふたりが飛び込む滝。
小さな水の1滴が巨大な奔流へと変わっていく様子と、命がけで逃走を続けていたコスタと花嫁との唐突で残酷な別れに涙してしまいます。
こんな人におすすめ
何処からともなく嵐のようにやって来て人々の日常をかき回した挙げ句に、いつの間にやら立ち去っていく戦争の不条理さに憤ります。
この瞬間にも地球上で生命を奪われていく多くの犠牲者へのレクイエムと、大地に埋められた無数の地雷にたった独りで挑み続けるコスタのラストショットが忘れ難いです。
ヤスミラ・ジュバニッチ監督の「サラエボの花」や、ドラゴスラヴ・ミハイロヴィッチの小説「南瓜の花が咲いたとき」など。
バルカン半島の作家たちによる映画や文学に造詣の深い皆さんは、是非ともご覧になってください。
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