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キャスト・スタッフ
「イカリエ-XB1」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「イカリエ-XB1」はインドゥジヒ・ポラーク監督によって、1963年の7月29日に劇場公開されています。
ポーランドの小説家スタニスワフ・レムによって1956年に発行されている、長編小説「マゼラン星雲」が映像化されました。
「ピエロ・フェルディナンド」や「ルールのないルール」等、メガホンを取ったのは子供向けのシリーズから犯罪物までを手掛ける映画作家です。
2016年には4Kバージョンで再編集された後に、第69回のカンヌ国際映画祭でのカンヌ・クラシック部門に正式出品されました。
日本では長らく公開待機作品となっていましたが、2018年5月19日にデジタルリマスター版での国内上映に漕ぎ着けています。
22世紀後半に人類の移住地候補となる惑星探査に出発した、巨大宇宙船に迫り来る危機を描いたSFアドベンチャーです。
あらすじ
地球上の環境破壊とエネルギー資源の不足が深刻化していた 2163年、居住型宇宙船「イカリエ-XB1」が出発しました。
世界初の試みとなる惑星探査飛行のメンバーには、艦長のアバイェフを筆頭に科学者から民間人までの多数が集まっています。
宇宙空間を漂っていたイカリエーXB1が1番最初に発見したのは、ずいぶんと旧いタイプの小型探査用宇宙船です。
かなりの距離まで接近しても乗組員の気配はまるで感じられずに、こちらの通信信号に応じることもありません。
アバイェフは異星人とのファーストコンタクトの可能性を考えて、ロボットではなくふたりの飛行士を偵察に送ります。
本船から切り離された小型艇でヘロルドとペトルが相手の船に乗り移った瞬間に、予想外の事件が勃発するのでした。
個性派俳優たちが満載
宇宙の涯てへと恐れを知らずに突き進んでいく、主人公のアバイェフ艦長役はズデニェク・シュチェバーネクです。
宇宙船外からは次から次へと不足の事態が降りかかってきて、船内でも人間関係が複雑で心の休まる暇はありません。
完全無欠のヒーローというよりも、悩み多き中間管理職のような悲哀を浮かべた表情に親しみ易さが湧いてきました。
頭脳明晰な数学者のアントニー役に扮している、フランティシェク・スモリクはチェコ映画には欠かせません。
カレル・チャペックの戯曲を実写化した「馬に乗った骸骨」や、実在する宗教改革者に成りきった「ヤン・フス」など1972年に亡くなるまで70本以上の作品に出演しました。
今作でも単なるロボット好きで頭でっかちな夢想家と思いきや、終盤で披露しているどんでん返しは必見ですよ。
レトロなロボがキュート
あの「スタートレック」や「未知との遭遇」にも多大なる影響を与えたという、自由奔放な発想から産み出された知られざる名作です。
古くから人形アニメーションが発達していたチェコらしく、今作でも自らの意で動くロボット・パトリックが登場します。
レトロなボディが可愛らしく、数学者・アントニーの完璧なプログラミングによって微妙な喜怒哀楽まで表現可能です。
次から次へと迫りくるのピンチを乗り越えていくうちにアントニーとパトリックとの間に芽生えていく、種族を越えた友情関係にも注目してみて下さい。
いざというときには身体を張って人間の命を守るのは、SF作家アイザック・アシモフのロボット3原則でもお約束ですね。
終盤に用意されている大活躍と、突如として訪れる皆とパトリックとの別れは涙なしには見ることが出来ません。
東欧の小国の底力
かつては冷戦時代を象徴する鉄のカーテンの東側で多くの謎に包まれていた、チェコスロバキア独特な世界観を垣間見ることが出来ます。
1989年11月9日にはベルリンの壁崩壊、1991年12月25日のソビエト連邦崩壊、1993年1月1日でチェコスロバキア解体。
いま現在ではチェコ共和国とスロバキア共和国のふたつに分かれていますが、本作品の製作が開始された1960年代前半には国内でふたつの勢力が激しく対立していました。
多種多様な民族が共存共栄を目指してイカリエ号に乗り込んでいくシーンには、自国への強いメッセージが込められています。
主人公たちの前に立ちはだかるダーク・スターは、圧倒的な兵力を誇るソ連でもあり揺るぎのない共産主義体制を暗示しているはずです。
旅の終着点でアバイェフ一向の目の前に広がる眺めも、プラハの春の遥か先にある自由と平和を見据えていました。
不安材料いっぱいでエンジン点火
人種から性別に出身国や宗教までがてんでバラバラな、40人の宇宙飛行士と一般人を乗せた旅立ちが壮観です。
指揮を執るアバイェフに対して、時おり反感のこもった眼差しを送っているマクドナルド副艦長が気になりました。
地球に残してきた妻とのモニター越しの会話には、強面の顔に似合わないほどの愛妻家の一面が滲み出ていて微笑ましかったです。
間もなく出産を控えている若い女性・シュテフィーや、ロボットおたくのアントニーなどは足手まといにしか思えません。
意外なことにそれぞれが適材適所のポジションに配置されていて、特殊能力を存分に発揮する活躍の場があるので楽しみになります。
宇宙のレクイエム
核兵器を搭載した20世紀の宇宙船との遭遇には、当時の放射能への危機感が伝わってきました。
アクシデントによって亡くなったふたりの船員の魂を鎮めるために、ピアニストが弾くのはアルテュール・オネゲルの曲です。
スイス軍兵士として第1次世界大戦の激戦区に赴任、戦後はパリに移住して作曲に没頭、第2次世界大戦下ではナチスドイツを鼓舞するワグナーに真っ向から挑戦。
激動の時代を駆け抜けていったひとりの作曲家のメロディーが、広島・長崎への原爆投下やビキニ環礁での水爆実験を糾弾しています。
20世紀代表する類いまれな音楽家への敬意とともに、現代にまで先送りにされてしまったかのような核兵器廃絶についても考えさせられる一幕です。
最後の関門を突破
腕利きメカニックのエリックとミハルが、船外に飛び出して無重力状態で故障箇所をメンテナンスする場面がスリリングでした。
無事に修復し終わって帰還してきたミハルの異変から端を発して、イカリエは最大の危機を迎えることになります。
原因不明の眠気にめまい、感情のコントロール不能、仲間うちに生じる疑心暗鬼、挙げ句の果てには産気づく妊婦さん。
副艦長が地球へのUターンを主張するのに対して、あくまでも前進に固辞する艦長のアバイェフが勇ましかったです。
乗組員全員が60時間眠り続けてしまうトラブルを切り抜けた先に、一向を待ち受けていた更なる非常事態に驚かされました。
こんな人におすすめ
辛うじて生き延びた乗組員たちが、人類を遥かに上回るほどの知的生命体とめぐり逢うクライマックスが圧巻でした。
地球上で争い事を繰り返す人間たちの矮小さと、宇宙を支配している人智の及ばない存在の偉大さを痛感させられます。
アバイェフが大気圏外から目の当たりにした無機質で巨大な未来都市が、これからの地球全体の行く末を予言しているようで不気味です。
ヤロスラフ・ハシェクの「兵士シュヴェイクの冒険」や、ヤン・シュヴァンクマイエルの「サヴァイヴィング ライフ」等。
古今東西のチェコ文学を読破した読書家や、映像作品に興味がある皆さんは是非ともこの映画をご覧になってください。
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