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キャスト・スタッフ
「愛を積むひと」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「愛を積むひと」は朝原雄三監督によって、2015年の6月20日に劇場公開されているヒューマンドラマです。
カリフォルニア在住の小説家エドワード・ムーニー・ジュニアによって、ソースブック社から発行されている「The Pearls of the Stone Man 」が映像化されました。
460ページの長編小説を、朝原監督と脚本家の福田卓郎の共同執筆によって2時間5分のオリジナルシナリオへと圧縮しています。
「時の輝き」から「武士の献立」まで、メガホンを取ったのは青春ストーリーや歴史ドラマなど幅広く手掛けている実力派の映画作家です。
第40回のブリュッセル国際映画祭では外国映画コンペティション部門に正式出品された他、最優秀女優賞にも輝きました。
東京都内から北海道へと移り住んで新生活をスタートさせた熟年夫婦の、悲劇を乗り越えた先の再生を描いた感動作です。
あらすじ
東京の蒲田で父親から受け継いだ小さな町工場の社長をしていた小林篤史でしたが、不況の煽りをもろに受けていて資金繰りは上手くいっていません。
職人堅気の篤史は一日中作業場にとじ込もって機械をいじっていて、経理から取引先の相手までをこなすのは妻・良子の役目です。
自転車操業の果てに経営に行き詰まった小林製作所は廃業へと追い込まれてしまい、土地と建物を売却して借金だけは何とか返済します。
手元に残ったお金で篤史と良子が購入したのは、以前にイギリス人の写真家が住んでいた北海道美瑛町の赤い屋根の洋館でした。
荒れ果てた屋内を改装してすっかり見違えるようになりましたが、石造りの外堀は依然として未完成のままです。
業者に連絡して年若い職人の杉本徹と石堀を直し始めた篤史ですが、長年の心労が重なった良子に異変が起こるのでした。
キャリアを積んだベテランたちに若手が脇を固める
不器用ながらも愚直な主人公の小林篤史には、ベテラン俳優の佐藤浩市のイメージがぴったりと填まっていました。
映画序盤でこそ退屈なペースの田舎暮らしに鬱屈とした表情を浮かべていましたが、中盤以降には微妙な心境の変化が生じているところに注目してください。
夫とは対照的に社交的な性格で夫婦のイニシアティブを握っている、良子の役を演じているのは樋口可南子です。
大手携帯電話のCMでもお馴染みとなった、豪放磊落でお茶目な味わいの母親像を自然体から体現していました。
篤史と良子の娘であり物理的にも精神的にも微妙な距離感が横たわっている、聡子の役には北川景子が扮しています。
小林一家にとっては単なる出入り業者以上の深い仲となる、何処か暗い陰のある青年・杉本徹の役を務めているのは野村周平です。
孤独な杉本にとっては心の拠り所となっている、天真爛漫な上田紗英役には杉咲花がキャスティングされていました。
夫婦円満を保つためのテーマソング
1日を通してテレビのスイッチを殆んど入れないこともあってか、小林夫婦の生活には静けさが満ちあふれていました。
無趣味な上にこれと言って欲しいものはない篤史でしたが、今どき珍しくレコードを集めていてオーディオだけにはこだわりがあります。
頭出しまでにやたらと手間隙がかかるのも乙なもので、レコード盤に針が落ちるあの心地よい瞬間が堪りません。
中でも特にお気に入りのナンバーはジャズ・ピアニストのナット・キング・コールが奏でる、「スマイル」です。
もともとは喜劇王のチャーリー・チャップリンが監督した1936年のモノクロ映画、「モダンタイムズのために自ら作曲しました。
映画の方は人間自身が機械文明のパーツの一部になっていくことを、皮肉とユーモアを交えて告発した内容になっています。
ふたりにとって思い出深い1曲を聴きながら、都会で工場の切り盛りに奔走していた頃の自分たちのことを振り替えっているのでしょうか。
壁から人の輪が広がる
篤史たちが住んでいる自宅の裏庭の外れにある、数メーターばかりを積み上げてやりっ放しになった石堀が物語の大きな鍵になっています。
ある日突然に良子が地元の造園業者を呼んできて、嫌々ながらも石堀造りを手伝わされてしまう篤史がユーモラスです。
平間造園の気さくな人柄の親方が連れてきたのは見習い職人の杉本徹で、無口で愛想のないところは篤史にも負けていません。
まさに石のように押し黙ったままで作業をする杉本と、慣れない肉体労働にイライラを募らせている篤史との間には見えない壁がありました。
この壁を取っ払う橋渡し役が良子で、手作りのお昼ご飯を御馳走したり何くれとなく世話を焼いてあげる様子が微笑ましかったです。
更には杉本の中学生時代からの彼女・上田紗英まで加わって、俄に4人家族のような賑やかさを取り戻していきます。
家の周りを囲い込む石堀が積み重なっていくうちに、人と人との繋がりの輪が広がっていくところに注目して下さい。
第2の人生にはしゃぐ妻と退屈する夫
観光客で賑わう美瑛の町を通り抜けた先に、緩やかに広がっている大草原がオープニングでは映し出されていきます。
緑に囲まれた自然をバックにしてひっそりと佇んでいる、赤い屋根が鮮やかな2階建てのログハウスは絵葉書のようで素敵です。
移り住んだ一軒家のリフォームから庭の草花の手入れまでと、パーフェクトにこなしてしまう小林良子には感心させられました。
燃え尽き症候群気味で手持ち無沙汰な様子の、夫・篤史とのコントラストがくっきりと浮かび上がっていきます。
新しい土地で最愛の人との死別
新天地へと引っ越しても仲睦まじい様子だった小林夫婦に、突如として降りかかってきた別れには胸が痛みました。
ひとり娘を授かっての子育てから夫の仕事のサポートまでと、自分のために費やす時間がまるっきりなかった良子の30年間の結婚生活に思いを巡らせてしまいます。
見る見るうちに自己嫌悪に苛まれていき荒れ果てていく篤史の毎日の暮らしぶりは、妻に先立たれた中年男性の典型的なパターンです。
そんな孤独に包まれていた篤史に救いの手を差し伸べてくれたのが遠くにいる肉親の聡子ではなく、近くにいる杉本や紗英だったのが印象的でした。
死者からの便り
紗英の赤いショルダーバッグやウォークインクローゼットの引き出し、家族の思い出の写真が詰まったアルバム。
生前に良子があちこちに遺しておいた手紙を読んでいるうちに、自分自身の人生を見つめ直していく篤史には胸を打たれました。
1度は自分たち夫婦を手酷く裏切った杉本を許した上で、社会復帰をサポートしていく度量の大きさにもビックリです。
父と娘としてわだかまりがあった聡子との関係性にも修復への道のりが見え始めてきた頃に、良子からの最後の手紙が舞い込んできます。
こんな人におすすめ
「古い土台の石が、その上に積まれる新しい石を支える」という、良子のメッセージが感動的でした。
旧世代が1日1日を一生懸命に生きることによって、世の中が変わっていき新しい世代が台頭してくることが伝わってきます。
夫婦や恋人を始めとするパートナーとの死別を経験されてきた皆さんには、是非ともご覧になって頂きたい作品です。
原作は杉田七重によって翻訳されていて、2004年の10月1日に求竜堂から「石を積むひと」の邦題で刊行されています。
北の大地を舞台にした映画版とは別の世界観があり、結末も大きく違っていますので興味のある方は読んでみて下さい。
みんなのレビュー
「愛を積むひと」を
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