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キャスト・スタッフ
「スケアクロウ」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「スケアクロウ」は1973年の9月22日に劇場公開されている、ジェリー・シャッツバーグ監督によるロードムービーです。
アメリカ社会を蝕む麻薬依存の実態に斬り込んでいく「哀しみの街かど」や、売り出し中の若手議員が一歩ずつ成長していく「或る上院議員の私生活」など。
違法薬物から政界まで様々なテーマを取り上げている、1927年生まれでニューヨーク出身の映画作家がメガホンを取っています。
第26回のカンヌ国際映画祭ではコンペティション部門で上映された後で、アメリカのワーナーブラザーズ社によって配給されました。
デンマーク映画批評家協会からはボディル賞を贈られていて、1973年度のキネマ旬報では外国映画ベストテン第1位にランクインしています。
出所したての宿無し男と故郷へと向かう元船員との、ふたりの男が厚い友情を築き上げていく感動作です。
あらすじ
マックス・ミランは気が短くて喧嘩っぱやい性格のせいか、子供の頃からトラブルばかりに巻き込まれています。
遂には傷害事件を起こした挙げ句に逮捕されてしまい、6年間の刑期を務め上げてようやく自由の身となったばかりです。
サンクエンティン刑務所を出て沿道に立ち尽くしていたマックスは、やたらと馴れ馴れしい青年が近づいてきました。
フランシス・ライオネル・デルブッキと名乗る彼と意気投合したマックスは、「ライオン」という渾名を与えて相棒にします。
マックスは前々からの念願だった洗濯ショップを開くために、 ライオンは5年間も疎遠にしている妻に会いに行くために。
ヒッチハイクで有り金を切り詰めてアルバイトをしながら小銭を稼いで、凸凹コンビの珍道中は続いていくのでした。
名優たちの若き日の肖像
掛け替えのない相棒と旅に繰り出す主人公マックス・ミランの役を、若き日のジーン・ハックマンが熱演していきます。
厳つい顔面に粗暴な振る舞いも辞さない大男にも、時おり優しく繊細な内面が見え隠れしているので見逃さないで下さい。
「ライオン」ことフランシス・ライオネル・デルブッキに扮しているのは、こちらも初々しさ溢れるアル・パチーノです。
パッと見るとお気楽なお調子者にしか思えませんが、何処か陰りを帯びた眼差しと次第に明かされていく過去に引き込まれていきました。
放浪癖のあるマックスにとって唯一無二の心の拠り所となる、妹・コリー役のドロシー・トリスタンの笑顔には癒されます。
コリーの友だちにして多くの男たちを易々と手玉にとっていく、フレンチー役のアン・ウェッジワースも色っぽいです。
アメリカ大陸をふたりっきりで横断
旅のスタート地点となるのは、カリフォルニア州の広大な荒れ地でハイウェイ沿いには滅多に車は通りません。
こっそりと飛び乗って無賃乗車した貨物列車の荷台からは、緑豊かな田園風景が流れるように映し出されていきます。
とぼとぼと線路沿いを歩くマックスとライオンの遥か前方に見えてくるのは、マックスの妹・コリーが住むコロラド州デンバーです。
旅が終盤に差し掛かった時に通りかかるのが、ライオンの妻が子供と一緒に暮らしているミシガン州のデトロイトです。
町の中心地には観光客にも人気なベルアイル公園があり、巨大な噴水と白い大理石のライオン像が心に残ります。
目的地であるペンシルベニア州の巨大な工業都市、ピッツバーグまで無事にふたりが到着できるのか見届けて下さい。
腹が減っては旅は出来ぬ
マックスとライオンが親友としての誓いを立てる場所は、街中にあるノスタルジックなカフェのカウンター席です。
コーンフレークにミルクをたっぷりとかけて平らげて、ベーコンからスクランブルエッグまで完食するなどマックスは食欲旺盛でした。
朝っぱらからビールを飲み干してドーナツまでデザートに注文するのは、服役中は質素な食生活を送っていたからなのでしょうか。
すっかり満腹になったマックスは、鉄のスプーンを手のひらでねじ曲げてしまうほどの自慢の怪力を取り戻していきます。
久しぶりに再会した兄のために御馳走を振る舞おうと、悪戦苦闘するコリーと友人・フレンチーの姿が可愛らしかったです。
普段は慣れない手間のかかる手料理にチャレンジしたために、食材を焦がしてしまう失敗も許してあげたくなるでしょう。
結局デリバリーを頼むことになり、日本でもカーネル・サンダースでお馴染みのカーネル・サンダースあのチキンボックスを皆で食べる場面がユーモラスでした。
転がる草と心に灯る火
オープニングでハイウェイ沿いを風に吹かれて転がっていくのは、この地方ではターンブルウィードという俗称で呼ばれている巨大な枯れ草の固まりです。
帰る家もなく当て所なくさ迷い歩いていくばかりの、フランシスとライオンの行く末に重ね合わせてしまいました。
しつこく言葉を掛けてくるライオンを無視していたマックスが、態度を一変させるきっかけとなったのはタバコの火です。
貴重なマッチを自分のためではなく見ず知らずの他人のために使う、ライオンの優しさには心温まるものがありました。
冷血な彼に芽生えていく温もり
道中のモーテルでマックスがポロリと溢した、「血も涙もないから温かくならない」という言葉が印象的でした。
武骨で自分自身の腕っぷしだけを頼りにして生きてきたマックスには、凡そ思いやりの心ユーモアはありません。
周りの人たちを笑顔にすることが大好きなライオンとのめぐり逢いがきっかけになって、少しずつ変化が訪れていきます。
出会った当初は馬鹿にしていたスケアクロウ(かかし)を笑うカラスの話も、すっかり信じてしまうのが微笑ましかったです。
気持ちの浮き沈みが激しいライオンを応援するために、恥も外聞も脱ぎ捨てたマックスが披露するかかしの物真似にはホロリとさせられました。
変わっていく者と変わらない者
ライオンとの自由気ままな冒険を通して人間性を取り戻したかに思えたマックスが、再び野獣のような獰猛さに目覚めていくシーンが驚きです。
遂には1カ月間の強制労働に就くことになり、豚小屋の掃除当番を言い付けられてしまう姿には哀愁が漂っています。
狡猾な密告者から冷酷非道な牢名主まで、海千山千の悪漢たちとの共同生活にはハラハラさせられっぱなしでした。
相変わらず不器用なマックスと、塀の中でも世渡り上手なライオンとの間にも少しずつ微妙な距離感が横たわっていきます。
1度は離れ離れになっていたマックスが、いざというときにはライオンの危機に駆け付けて来るシーンが圧巻です。
こんな人におすすめ
精神的に深い痛みを抱えていたライオンは閉鎖病棟で長期間の入院へ、ピッツバーグ行きのチケットを買うためにマックスは空港へ。
余りにも呆気ない旅の幕切れと、別々の道のりを歩んでいくこととなったふたりの後ろ姿は涙なしには見ることは出来ません。
空港ロビーのカウンターで奇行を繰り返すマックスは、やがてはライオンと同じような運命を辿っていくようにも感じました。
マックスとライオンが最後の最後まで貫き通した熱い絆には、男女や年齢層を問わずに強く胸を打たれるはずです。
クラスメートや友人との関係性について思い悩んでいる、幅広い世代の皆さんに見て頂きたい作品だと思います。
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