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キャスト・スタッフ
「カフーを待ちわびて」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「カフーを待ちわびて」は中井庸友監督によって、2009年の2月29日に劇場公開されているヒューマンドラマです。
キュレーターとしても活躍している原田マハによって宝島社から2006年4月3日に発行されている、第1回日本ラブストーリー大賞受賞作が映像化されました。
全279ページに及ぶ長編小説が、脚本家の大島里美によって121分のオリジナルシナリオへと纏め上げられています。
油絵と音楽の融合に挑んだ「葉祥明美術館 LINE」や、血の繋がらない一家が逞しく生き抜いていく「ハブと拳骨」など。
映像クリエイターから舞台演出家まで幅広いジャンルで活躍している、東京都出身の映画作家がメガホンを取っています。
南の島で小さな雑貨店を営んでいる青年と、彼を訪ねてきた不思議な女性との仄かなロマンスを描いた感動作です。
あらすじ
友寄美晴は幼い息子の明青を与那喜島に置いたまま、当時交際していた男性と出奔してそれっきり戻ってくることはありません。
同居していた祖母が7年前にこの世を去った後は、明青はたったひとりで家業の雑貨商を切り盛りしていました。
島の仲間たちと北陸地方に旅行に出掛けた時に、縁結びの神社をお参りした明青は絵馬に「嫁に来ないか」と自分の名前と島の場所を書いておきます。
4カ月ほど経ったある日のこと明青が自宅の郵便ポストに見つけたのは、白い封筒に入った幸という女性からの手紙です。
絵馬を見て近々訪ねてくるという文面通りに、幸は本島からフェリーに乗って明青の前に現れて家の中にまで上がり込んできます。
多くを語ることのない彼女に明青は戸惑いを覚えながらも、共同生活を通して少しずつふたりは距離感を縮めていくのでした。
島生活に浸った青年と寄る辺のない彼女を好演
若いくせに何処か浮き世離れした主人公の友寄明青の役には、玉山鉄二のイメージがぴったりと填まっていました。
明青との劇的なめぐり逢いを果たす、ヒロインの幸を好演しているのは1985年生まれでシアトル出身のマイコです。
道行く観光客から地元民までの視線を釘付けにする容姿端麗さばかりではなく、寄る辺の無さを漂わせた眼差しも魅力的ですね。
根なし草のように生きる明青の母・美晴役を務めている、高岡早紀も出番こそ少ないもののインパクトがあります。
村長・宜保秀雄役のほんこんや、ユタのおばあ・玉城ミツ役の瀬名波孝子などは背景の一部に溶け込んでいました。
野心あふれる開発事業の旗振り役・照屋俊一役には、沖縄県出身のファッションモデル・尚玄がキャスティングされています。
リゾート開発を巡って対立していく新垣渡役の勝地涼とのバトルや、愛憎半ばしていく明青との関係にも注目して下さい。
島の風景と地域コミュニティの温かさ
世の中の慌ただしさから取り残されたような、主人公が暮らしている沖縄の小さな島には癒されることでしょう。
作曲家の池頼広が担当しているサウンドトラックと、音楽ユニット・moumoonが歌うテーマソング「EVERGREEN」にもほっこりさせられました。
友寄商店の店先や店内に並んでいるのは食料品からトイレットペーパー、オモチャに文房具と何でも揃っています。
午前中には買い物ついでに立ち寄った高齢者で賑わいを見せ、午後からは下校途中の小学生たちの憩いの場です。
何も買わないお客さんに対しても、愛想よく振る舞い親身に相談に乗ってあげる明青の人柄の良さが滲み出ていますね。
公民館では島民たちによる集会が頻繁に開かれていて、「模合」と呼ばれている相互扶助システムについても垣間見ることが出来ます。
人と人との結び付きが薄れていく一方な都会の生活と、昔ながらの御近所付き合いを大切にする地方とのコントラストが鮮やかです。
禍福が糾える
本作品のタイトルの「カフー」とは沖縄地方の方言で、「幸せ」や「吉兆」といった意味が込められています。
明青が飼っている黒のラブラドール犬がカフーで、夕方の散歩の時間が近づいてくると縁側を降りた先にちょこんと座っているのが可愛らしいです。
母親が失踪して以来たったひとりで生きてきた明青にとっては、言葉を交わすことが出来なくとも自分を待ってくれている存在が幸せなのでしょう。
人懐っこいカフーですが、明青の幼馴染みである照屋俊一にだけは何故だか敵意を剥き出しにして唸り声を上げるのが気になります。
ルーティンワークのごとく繰り返されてきた明青の毎日を、突如として乱すことになるのが幸(さち)と名乗る女性です。
果たして幸が運んできたのは幸運の報せなのかそれとも不幸の始まりなのか、その予想外の結末を見届けてください。
規則正しい明青の暮らしぶり
朝早くから愛犬のカフーとお散歩、午前と午後の店番の合間にお昼寝、閉店後は食事済ませて泡盛で一杯、風呂に入って万年床で就寝。
修行僧のようにストイックで乱れることのない生活のリズムを、大真面目な表情で刻んでいるのには笑わされます。
ルックスにも恵まれて健康そのものな明青ですが、左手に残された火傷の痕とハンディキャップが痛々しかったです。
お店にやって来るのは話し相手に餓えているお年寄りか、アイスクリームを買いに来る子供たちくらいで女気はありません。
ふとした気まぐれから遠く離れた北の孤島の神社に残したメッセージが、思わぬドラマを巻き起こしていく展開には驚かされました。
浜辺に舞い降りた美しくも儚げな彼女
手紙を受け取りながらも半信半疑だった明青の目を醒ますことになる、幸の初登場シーンが鮮烈に焼き付きます。
夕暮れ時の浜辺へと続いていく道の途中に立つ、ガジマルの木の下で明青と幸が視線を交錯するシーンがロマンチックでした。
ふわりと身に纏った白いワンピースの裾をひらひらとさせながら、頭の上の麦わら帽子を風で飛ばされないように押さえる仕草も色っぽいです。
何処からやって来たのか、何時までここに居座るつもりなのか、残してきた家族はいるのか、本当の目的は何なのか。
初対面の見ず知らずの女性に対しても、根掘り葉掘り問いただすことなくあっさりと迎え入れてしまう明青の度量の大きさに感心させられます。
ひとつ屋根の下で過ごしながらも、決してプライベートには踏み込むことのないピュアなふたりが微笑ましかったです。
押し寄せる時代の波
何ひとつ変わらないように見えていた島にも、少子高齢化や観光事業の衰退が押し寄せているのがほろ苦いです。
開発推進派と立ち退き反対派の主張が真っ向からぶつかり合うによって、水面下では騒がしさを増していきます。
海千山千の誘い文句とあの手この手を駆使して先祖代々の土地を買い叩こうとする、リゾート会社の強欲さには呆れ果ててしまいました。
その一方では全てを流れに任そうとする、土地とお金のしがらみから解放されたかのような明青の泰然とした構えが心に残ります。
こんな人におすすめ
いつも明るく純真無垢だった幸の終盤で明かされていく壮絶な過去と、彼女が抱えていた想像を絶する苦しみには胸が痛みました。
その一方では幸と明青との思わぬ繋がりと、最後まで途切れることのなかったお互いへの想いにはホロリとさせられます。
代わり映えのしない毎日に物足りなさを覚えている皆さんや、常日頃から出会いの無さを感じている方は是非みて下さい。
みんなのレビュー
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