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キャスト・スタッフ
「帰ってきたムッソリーニ」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「帰ってきたムッソリーニ」はルカ・ミニエーロ監督によって、2019年の9月20日に劇場公開されています。
ドイツ人ジャーナリストのティムール・ヴェルメシュによって発行されている、「Er ist wieder da」を映像化したものです。
デヴィッド・ヴェンド監督によって2015年に製作された実写化作品「帰ってきたヒトラー」が、舞台をイタリアへと移行してリメイクされました。
「南へようこそ!」や「居間のボス」等、メガホンを取ったのは犯罪ものからコメディーまでを手掛けている映画作家です。
イタリアのアカデミー賞とも言われているダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞2019の、脚本賞にノミネートされました。
現代に現れたムッソリーニが冴えないクリエイターや野心家のテレビ局員と共に、ひと騒動繰り広げていくブラックコメディーに仕上がっています。
あらすじ
アンドレア・カナレッティは映像作家をほそぼそと続けていて、ローマ市内のテレビ局で契約社員として番組製作に携わっていました。
地元の少年サッカーチームに密着取材していた2017年4月28日、突如として上空から軍服姿の中年男性が落下してきます。
自らをベニート・ムッソリーニだと主張する男性の話を、集まってきた人たちは誰ひとりとして信じるものはいません。
たまたまその場に居合わせたカナレッティが思い付いた名案は、彼をムッソリーニのそっくりさんとして売り込むことです。
編集局長に就任したばかりのカティア・ベッリーニもすっかり乗り気で、「ムッソリーニ・ショー」と銘打たれた新番組が始まります。
当初は面白半にムッソリーニを持ち上げていた人たちも、少しずつ彼の怪しげな魅力の虜となっていくのでした。
完全復活を怪演
かつての独裁者ベニート・ムッソリーが70年の時を越えて甦った姿を、マッシモ・ポポリツィオが怪演しています。
スキンヘッドに厳つい身体つきが威圧感たっぷりで、世界中から観光客が押し寄せてくるローマの雑踏の中でも人目を惹きました。
視聴率獲得のためには手段を選ぶことのないテレビマン、カティア・ベッリーニ役はステファニア・ロッカです。
豊かなブロンドの髪の毛を風に靡かせながら、ムッソリーニと一緒にイタリア全土を駆け回る姿が美しくも危うく映りました。
ムッソリーニをネタにして返り咲きを虎視眈々と狙う、アンドレア・カナレッティ役にフランク・マターノが起用されています。
序盤でこそ仕事でもプライベートでも失敗ばかりの情けない役どころでしたが、ラスト近くでは予想外の活躍が用意されていました。
ドゥーチェと巡る旅
映画冒頭でムッソリーニが降り立つのはエスクイリーノ地区の広場で、古代ローマ帝国の起源となった七丘のひとつを構成しています。
カナレッティと全国行脚へと繰り出したムッソリーニが立ち寄ったのは、ファッションショーやサッカークラブで有名なミラノです。
街の中心にあるロレータ広場に差し掛かると、一瞬だけムッソリーニが怯えた表情を浮かべるので見逃さないで下さい。
ここでムッソリーニは愛人のクラーラ・ペタッチと、パルチザンによって処刑されたことを思い出したのでしょう。
終盤でテレビ局の建物から出て来たムッソリーニがベッリーニと向かう先は、帝国通りと呼ばれている大通りです。
古代と現在を結び付けるために建設されたこの大通りが、物語を締めくくる舞台に選ばれているのが何とも意味深ですね。
ありのままの世界を撮し人々の本音に耳を傾ける
演説中のムッソリーニを捉えた貴重なフィルム映像が随所に挿入されていきますので、物語にリアリティーがありました。
道行く人たちに手当たり次第に街頭インタビューを敢行して、映画の中の登場人物としてしまう強引さにも驚かされます。
顔にモザイク処理が施された映像や、スマートフォンで撮影されたとおぼしき動画も臨場感を高める効果覿面です。
冒頭でインタビューに答えていた若い女性の、「生活するのに必死で政治なんて分からない」という言葉が印象深かったです。
多くの市民が思考停止状態に陥ってしまい、諦めにも似た雰囲気が漂っているのはイタリアに限ったことではありません。
無力感に打ちのめされることなく、街中の小さな怒りの声を集めて大きな相手にぶつけていく必要性を感じました。
変わり果てた現代のローマに
オープニングショットはサッカーボールを追いかける少年たちの姿で、その顔触れがアジア諸国からアフリカ系と多種多様です。
カナレッティが口うるさい上司から押し付けられた仕事も、移民の実態に迫るドキュメント作品の製作なのが世相を反映していました。
直後に空から落ちてきたのはあの悪名高きムッソリーニで、体全体にロープを巻き付けているのは銃殺直前に逆吊りにされていたからでしょうか。
混乱の最中で離れ離れとなった愛する人を心配したムッソリーニが、思わず「クラレッタ」とその名前を呟いてしまう人間的な弱さも垣間見えます。
生前は差別思想にとり憑かれていたムッソリーニが、雑貨屋を経営する同性カップルに助けられるのも何とも皮肉です。
巻き起こす熱狂
俄に復活した歴史上の人物に対して、一般大衆やマスメディアが一気に沸き上がっていく様子に圧倒されました。
SNSやインターネットが普及した現代におけるテクノロジー利便性を、巧みに利用していくムッソリーニが不気味です。
カナレッティや彼のガールフレンド・フランチェスカに代表されるような若者世代は、たちまち彼の弁舌とカリスマ性に心奪われていきます。
それとは対照的にムッソリーニに根深い嫌悪感を露にするのが、第2次世界大戦中にユダヤ人として迫害を受けたフランチェスカの祖母です。
「最初は誰もがあの男を笑っていた」という歴史の生き証人セリフからは、滑稽さの仮面の下に隠されている底知れない悪意が伝わってきました。
ムッソリーニ炎上中
動物虐待騒動から端を発した一連の疑惑によって、一夜にして転落していくムッソリーニの後ろ姿には哀愁が漂っていました。
局内の派閥争いの犠牲になって失脚したベッリーニの自宅に転がり込んで、レジスタンスのごとく匿ってもらう厚かましさには呆れてしまいます。
一方でムッソリーニに心底夢中になっていたはずのカナレッティは、ようやく彼の危険性について自覚し始めていました。
自らが産み出してしまったメディアの怪物をこの世から抹殺するために、拳銃を握りしめて生放送中の現場へと駆け付けていく姿が勇ましく映ります。
あと一歩のところまでムッソリーニを追い詰めながらも、人々の目を冷まさせることが出来なかった顛末がほろ苦いです。
こんな人におすすめ
あたかも凱旋パレードのように、オープンカーに乗ったムッソリーニとベッリーニが駆け抜けていくラストが圧巻です。
ネット右翼や政治への無関心の危険性を認識するためにも、選挙権を得たばかりの高校3年生の皆さんにお勧めします。
原作の方は2016年の4月23日に河出書房新社から、リーズナブルな価格のペーパーバック版で文庫化されました。
ムッソリーニであれヒトラーであれ2度とこの世界に送り出してはいけないという強いメッセージが込められています。
ドイツ・イタリアに続いてゆくゆくはかつての枢軸国・日本でも製作されるであろう、「帰ってきた○○」のタイトルを予想しながら読んで下さい。
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