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キャスト・スタッフ
「太陽の坐る場所」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「太陽の坐る場所」は矢崎仁司監督によって、2014年の10月4日に劇場公開されているヒューマンドラマです。
辻村深月によって文芸雑誌「別冊文藝春秋」の、2008年1月号から11回に分けて連載されていた作品が映像化されました。
記憶を奪われた兄と自分自身を偽り続けていく妹が抜き差しならない関係性へと落ちていく「三月のライオン」や、湖畔のアトリエでひとりのカメラマンがふたりの女性に翻弄されていく「スティルライフオブメモリーズ」など。
寡作ながらもインディペンデントから商業作品までをこなす、1956年生まれで山梨県出身の映画作家がメガホンを取っています。
同じ名前を持って同じ高校に通っていたふたりの女の子の、10年の時を越えた再会までの道のりを追った感動作です。
あらすじ
とある地方都市でDJをとして活躍している高間響子のもとに、ある日舞い込んできたのは島津謙太からの同窓会の報せです。
気が進まないながらも長らく疎遠にしていた、高校生の頃にはいつも一緒にいたある女性に会うために足を運んでみました。
無名の舞台女優から映画の主演に大抜擢されてブレイクした彼女は、スケジュールが大忙しのためか現れません。
旧友たちとの話も弾まないためにそこそこで会場を後にした響子は、教室で1番の人気者だったあの頃を振り返ります。
大人しくて目立たない生徒だった鈴原今日子に「リン」という渾名を付けたのは、自分だけが「きょうこ」と呼ばれたかったからです。
若き日の傲慢さを思い知らされた響子は、今では全てを手にした今日子との再会を決意するのでした。
光と影のヒロインが鮮やか
高校卒業から10年の歳月が流れても罪悪感を引き摺り続けている、ヒロインの高間響子を水川あさみが演じていきます。
30歳を目前にしても思春期から抜け出すことが出来ないようなモラトリアム感を、陰りを帯びた眼差しで体現していました。
かつては響子の傍らでひっそりと隠れていたもうひとりのヒロイン、鈴原今日子の役には木村文乃が扮しています。
いま現在での舞台女優としてスポットライトを浴びている姿が、パワーバランスの逆転を見事に表現していますね。
ふたりの邂逅にひと役買うことになる水上由希にキャスティングされている、森カンナも魅力的な女優さんです。
飼っている猫にも名前を付けることなく流離うような生きざまは、「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーにも負けていません。
華やかな女性陣をサポートする、島津謙太役を務めている三浦貴大や野島役の鶴見辰吾も存在感を発揮していました。
物語とシンメトリーをなす舞台
山梨放送局開局60周年記念作品として、富士の国やまなしフィルムコミッションの全面的な撮影協力を取りつけて現地ロケを敢行しています。
劇中では同窓会は都内で開催されたことになっていますが、撮影はレストラン・チリンドロを借りきって行われました。
アパレル関係に就職した由希の職場には、山梨県立図書館の3Fフロアにあるサイレントルームの斬新なデザインがぴったりです。
過去パートのメイン舞台に設定されている藤見高校のロケ現場には、富士川町にある増補中学校が選ばれました。
響子と今日子が黒板を挟んで初めて向かい合うシーンが、何処かノスタルジックな校舎の佇まいと共に焼き付きます。
体育館だけはイメージが合わなかったようで、矢崎監督の出身校である同じ町内の魚秋沢中学校での別撮りです。
高い天井から射し込んでくる夕陽が幻想的なムードを湛えていて、物語を締めくくる終着点としても最適ですね。
過去から現在を経由して未来へ
過去と現在を激しく行き来しながら、一見するとバラバラに見えていたエピソードを回収しつつ進行していきます。
映画冒頭で体育館裏の倉庫の分厚い扉を挟んで交わされる、「私を閉じ込めて欲しい」という会話が意味深でした。
雪がチラホラと舞い散る中センター試験へと向かう受験生の列を、嫌々ながら制服を着てレポートしている響子には年齢を重ねることの残酷さを感じるはずです。
勇気を振り絞って参加した同窓会での気まずいお開きから、いつの間にか時間を遡っていくような感覚に襲われます。
回想シーンで紛失した由希のスカートが、再び現在へと戻った時に予想外の場所で発見されるのがビックリです。
薄暗い体育倉庫の呪いから10年をかけて解き放たれていくかのような、クライマックスの風景には圧倒されるでしょう。
日陰から抜け出せない人たちの悲哀
地方のラジオ局でアナウンサーを惰性で続けている、高間響子のぼんやりとした表情から物語は幕を開けていきます。
俄に降ってわいてきたキーステーションへの移籍という有難いお誘いにも、それほど心を動かされた様子はありません。
久しぶりの同窓会では以前のように異性の視線を集めることもなく、白けた歓迎を受けてしまう一幕が切ないです。
学生時代の遺恨を忘れることが出来ない水上由希が彼女を揶揄する、「田舎の女王さま」というセリフが痛烈でした。
幹事を半ば強引に押し付けられた島津謙太も、地方銀行の支店から本店勤めへの栄転を虎視眈々と狙っています。
地方都市に特有な閉塞感と、理想と現実とのギャップに打ちのめされてきたアラサー男女の後ろ姿が哀愁たっぷりです。
それぞれの思惑が交錯していく中で、皆の話題を集めながらもとうとう姿を見せなかった鈴原今日子の行方が気になります。
置き去りにした彼女たちの青春
スクールカーストの頂点にたち、友だちも恋人も欲しいものは何でも手中に収める女子高校生・響子がふてぶてしいです。
響子に対して表面的には友好ムードをアピールしながらも、心の奥底では嫌悪感を抱いている由希は社会人時代と変わっていません。
のちに女優として開眼する今日子が、思いの外控え目だったのは意外な印象を受けました。
ふとした瞬間からいじめや疎外のターゲットになり、体育館の倉庫に閉じ込められた女子生徒の悲痛な叫び声には胸が痛みます。
倉庫の扉を閉ざして青春時代の掛け替えのない思い出を置き去りにしてしまった響子に、手痛いしっぺ返しが待っているのは自業自得です。
地に足をつけて生きる
放課後に制服姿のままで繁華街へと繰り出して嬌声を上げている、女子高生グループに注ぐ響子の眼差しが印象深かったです。
「私もあんなに幼かったのかな」としみじみと感想を述べる彼女の表情からは、以前のような迷いは微塵もありません。
一時はまんざらでもなかった東京行きの話を丁重にお断りする響子からは、ありのままの自分を受け入れる覚悟が伝わってきました。
田舎であろうと都会であろうとも、自分の居場所を見つけることこそが何よりもの幸せだと考えさせられます。
こんな人におすすめ
因縁深い体育館で美しく成長を遂げた、ふたりの「きょうこ」が向かい合うラストシーンには心を揺さぶられました。
高校の理科の授業で観察した日食のように、いまや太陽だった響子が月の今日子に覆われて消えそうになっています。
打ち負かされた響子に対して今日子がそっと差し出した贈り物と、全てを許すような言葉は忘れることができません。
学生の頃の仲が良かったクラスメートと御無沙汰になっている皆さんは、是非ともこの1本をご覧になって下さい。
みんなのレビュー
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