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キャスト・スタッフ
「コンフェッション ある振付師の過ち」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「コンフェッション ある振付師の過ち」はスティーブン・ベルバー監督によって、2014年に製作されました。
トライベッカ映画祭でのワールドプレミア上映の後に、IFCフィルムズの配給で2015年1月14日に劇場公開されています。
2004年プリマスシアターで初演されたブロードウェイミュージカル、「Match」を原作者自らが映画化したものです。
同じ高校を卒業した3人の男女の運命が交錯していく「テープ」や、モーテルで受付係として働く冴えない青年に幸運が舞い降りてくる「Management」など。
オリジナルシナリオの執筆から舞台劇の演出までを手掛けている、1967年生まれでワシントンDC出身の映画作家がメガホンを取っています。
孤独に生きてきた元ダンサーの中年男性の日常が、招かれざるふたりの珍客によってある日突然に動き始めていくヒューマンドラマです。
あらすじ
「トビー」ことトバイアス・パウエルは現役時代には、プロのダンサーとして輝かしいキャリアを収めてきました。
引退後にはニューヨークでも指折りの名門校からバレエ講師として招かれることになり、後身の指導にあたっています。
ある時にインタビュアーとしてトビーの自宅を訪ねてきたのは、ダンス史の研究家と名乗るマイクと彼の妻・リサです。
1960年代のダンスコミュニティについて論文を執筆しているという夫妻でしたが、若き日のトビーの活躍にはまるで興味を示しません。
やたらとトビーのプライベートに探りを入れてくるために丁重にお引き取り願うと、突如としてマイクは豹変します。
遂には乱闘騒ぎにまで発展しそうになった時に、ようやくふたりはこの場所に来た本当の目的を打ち明け始めるのでした。
輪舞のような競演
過去の栄光にすがって生きる主人公、トバイアス・パウエルの役を演じているのは、パトリック・ステュアートです。
シェイクスピア劇団で主役を歴任してきた実績があるだけに、演劇界出身のベルバー監督とは息が合っています。
俳優活動と平行してオックスフォード大学での客員教授として教鞭を執っているだけに、劇中での地政学あふれる講師姿も様になっていました。
「スタートレック」シリーズでのピカード艦長や、ブライアン・シンガー監督作「Xーメン」等エンタメ系との愛称もバッチリですね。
はた迷惑の固まりのような突撃インタビュアー、マイク役にはマシュー・リラードのイメージが填まっていました。
ジョン・ウォーターズ監督の1994年作「シリアル・ママ」での男子高校生や、ホラー映画の名作「スクリーム」での悪漢の名残があります。
非常識な夫に振り回されていく妻・リサ役の、カーラ・グギノの落ち着いた雰囲気とのコントラストが効果的です。
彼が本気で編むのは
決まりきった日常をルーティンワークのごとく繰り返していく、トビーの毎日が淡々としたタッチから映し出されていきます。
勤め先では何かにつけて無気力なトビーが、家の中で異様なほどに焦れ込んでいる編み物に注目してみて下さい。
ひとつのパターンを段階ごとにバリエーションを付けながら編み込んでいく、フェアアイルがの模様が美しいです。
せっかくの完成品は無造作にクローゼットに放り込まれているだけで、なかなか陽の目を見ることがありません。
予期せぬ来客によってようやく自作を披露する機会が訪れた時の、ちょっぴり誇らしげなトビーの顔が微笑ましいです。
東から西へ愛憎の旅
トビーがバレエのインストラクターを務めているのは、数多くの偉大なアーティストを輩出してきたジュリアード音楽院です。
ピナ・バウシュに代表されるバレエ界の巨匠や、チック・コリアのようなジャズミュージシャンまで枚挙に暇がありません。
マンハッタンののど真ん中に聳えたつ正三角形の校舎、アリス・ターリー・ホールの斬新なデザインに目を奪われます。
コーヒーチェーン店とメジャーリーグチームで日本でも馴染みのある、シアトルからやって来たのがマイクとリサの夫婦です。
西海岸の芸術の聖地を終の棲家と決め込んでいたトビーの隠とん生活が、東海岸在住のふたり組が奏でる不協和音によって掻き乱されていきます。
バレエの話やジュリアードでの活躍よりも、遥か昔の女性遍歴についてリサとマイクが関心を示しているのも気掛かりです。
マイクがわざわざ自宅から持ち込んできたという、1本の綿棒によって導かれていく予測不可能な終着点を見届けて下さい。
舞台を降りて早めの余生
1度はステージを降りた主人公、トバイアス・パウエルのぼんやりとした顔面アップがオープニングショットです。
全米最高峰の芸術学校でバレエレッスンを任されながらも、生徒たちひとりひとりと向き合うことはありません。
若さと情熱あふれるバレエダンサーの原石に囲まれながらも、どこか授業に身が入っていないのが焦れったいです。
かつては新進気鋭のダンサーとして活躍しながらも、怪我によってその道を絶たれた個人的な感情が入り交じっています。
バレエ・スタジオの床をリズミカルに打ち鳴らす、トウ・シューズの音には不吉な予感を感じてしまいました。
忘れたはずのあの人
いま現在ではまるっきり女っ気のないトビーですが、若い頃はさぞかしモテたであろう逸話が少しずつ明かされていきます。
1度は生涯のパートナーとして熱い誓いを交わし合いながらも、引き裂かれていった恋人たちのその後が痛切です。
ガンとの闘病生活の末に2年前にこの世を去った女性・グローリアへの、トビーの想いは終生変わることはありません。
一目会ったことさえない息子に対して、大学へ進学するまでの経済的な援助を肩代わりしてしまう義理堅さに胸を打たれました。
今わの際でグローリアがポロリと溢した言葉が、時を越えて甦ってくるかのように息子・マイクがトビーの前に立ちはだかります。
ふたりの未完成な父にひとりの強き母
マイクがトビーの口の中に手を入れて、強制的にDNAサンプルを採取してしまう暴挙にはあきれ果ててしまいました。
バレエだけを愛して父親になることを拒否したトビー、実の父親を知らないが故に子供を持つことに踏み切れないマイク。
これまでの人生において目の前のやっかい事から逃げ続けてきた、ふたりの男性の精神的な未熟さが浮き彫りになっていきます。
それとは対照的に不甲斐ない夫に悩まされながらも、心の奥底に母親になるための強い決意を秘めたリサが素敵です。
トビーとリサとの間に築き上げられていく、つかの間の疑似的な親子のような関係には心温まるものがありました。
こんな人におすすめ
ラストに判明するDNA診断の意外な結果からは、人間にとって血の繋がり以上に大切な絆について考えさせられました。
生物学上の父親の存在にこだわっていたマイクが、本当の意味での家族の愛を噛み締める瞬間を鮮やかに捉えています。
長らく止まっていた時間が動き出していくようなトビーとマイクの別れのシーンと、それぞれが選んだ新しい人生が忘れ難いです。
日本では劇場公開が見送られた作品ですが、Google PlayやAmazon Prime Videoの動画サービスで配信されています。
間もなく父親となる男性の皆さんや、子育て真っ最中な若いお父さんは是非ともこの1本をご覧になってください。
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