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キャスト・スタッフ
「クロノス・コントロール」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「クロノス・コントロール」はロバート・クーヴァー監督によって、2017年にスイスとアメリカの2カ国で合同製作されました。
本国アメリカでバーティカル・エンターテイメントの配給によって先行上映された後に、日本でも2018年の7月20日に劇場公開されています。
チェコで2013年に撮影された低予算ムービー「オーロラ」を、クーヴァー監督のオリジナルシナリオで92分の長編へと拡張したものです。
文学青年と少女とが心通わせていく「Caer」や、狂信的な科学者が自らの肉体を犠牲にして狂信実験にのめり込んでいく「Conscientia」など。
恋愛ものからホラーまでの創作活動を続けている、1992年生まれでスイス・チューリッヒ出身の映像クリエイターがメガホンを取りました。
武蔵野興行によって2018年に開催された、カリテ・ファンタスティックシネマコレクションには新作部門で出品されています。
AIによって人類滅亡のカウントダウンが始まった近未来で、ふたりの男女が残された希望を追い求めるSFアドベンチャーです。
あらすじ
ロボット企業のCEOを務めているエライアス・ドーンは、戦争を終わらせるための画期的な発明を完成しました。
「クロノス」と名付けられたスーパーコンピューターは、世界が平和になるためのひとつの答えを導き出します。
直ちにクロノスの意志によって実行に移されたのは、地球上から諸悪の根源である全人類をひとり残らず抹殺する一大計画です。
辛うじて大虐殺を免れた青年・アンドリュー・デイヴィスは、監視の目をくぐり抜けながらその日暮らしを送ることになります。
ある時にふとしたきっかけで行動を共にすることとなった若い女性・カリアから聞いたのは、生き延びた僅かな人類が共同生活を送っているコロニーの存在です。
残された希望の地「オアシス」へと向かうアンドリューとカリアは、道中でクロノスに纏わる恐るべき秘密を知るのでした。
ロボットに負けない熱演
絶望的な生存状況からの脱出に奮闘する、主人公のアンドリュー・デイヴィス役はユリアン・シャフナーです。
映画の冒頭でのいまいち頼りない若者から、中盤戦以降でのドラマチックな変幻ぶりを見事に体現していました。
無法化した地上においてもたった独りの力で生き抜いてきたヒロイン、カリア役にジャニーヌ・ヴァカーが扮しています。
黒い髪の毛にエキゾチックなヘアスタイルと、持ち前の高い身体能力を活かしたアクションシーンは必見ですよ。
人口知能クロノスの生みの親にして創造者のような威厳を湛えた、エライアス・ドーン役はジョン・キューザックです。
リー・ダニエルズ監督が2013年に発表した「大統領の執事の涙」ではリチャード・ニクソン、「推理作家ポー」ではエドガー・アラン・ポー。
このところは実在する大物や地に足を着けた役どころが多かっただけに、今作での桁外れの悪役抜擢は驚かされますね。
人間なのか機械なのか
野獣のように豹変して見る影もない人間、アンドロイドでありながら人間とまるっきり見分けが付かないヒューマノイド。
生身の肉体を持つ人間と心が宿ったロボットとの境界線があやふやになっていく、独特な世界観には見ごたえ充分です。
肉体的な衰えに怯えていたエライアスがある時に思い付いた、奇想天外なアイデアには驚かされることでしょう。
遂には自分自身をアップロードするかのように、巨大なシステムの一部と一体化していく姿には鬼気迫るものがあります。
全てをコントロールするクロノスにも創り主の人格が投影されているために、時おり迷いが生じていき完全無欠ではありません。
一瞬の隙を突いて果敢に攻め込んでいく、アンドリューやカリアに代表されるような新世代の活躍にも注目して下さい。
縦横無尽に繰り広げられるロボット戦争
見上げるような高層ビルが立ち並びきらびやかなネオンに包まれた巨大都市から、ストーリーは幕を開けていきます。
スーツ姿で帰宅したアンドリューをお出迎えするのは、家族ではなく丸みを帯びたボディーが愛嬌のある一般的用のお手伝いロボです。
大都会の片隅や人々の日常生活の風景の端々に、バリエーション豊富なロボットが違和感なく溶け込んでいました。
全身銀色のメタリックでコーディネートされている、知的産業に携わるロボットはスタイリッシュで格好いいです。
もはやロボットというよりも大型戦車や機動要塞を思わせるような、フル装備の戦闘タイプはミリタリーファンには堪りません。
最先端のVFXに慣れ親しんだ若い世代から、超合金フィギュアやガンダムのプラモデルに夢中になったミドルエイジまでお楽しみ頂けます。
終わりなき過ちと破滅へのスイッチ
異なる宗教や民族による紛争から国と国同士による争い事、地球規模での環境破壊から天然資源の無駄遣いまで。
これまでの歴史の中で人類が繰り返してきた愚行が、僅か数分のオープニングで無尽蔵に掘り起こされていきます。
戦争の終結のために製造されたロボットたちが、かえって戦争の原因となっている劇中でのジレンマが皮肉です。
テロとの戦いに明け暮れながら世界各国にテロの火種をばら蒔いている、現実の超大国へのメッセージが込められていました。
ありとあらゆる判断をテクノロジーに委ねてしまい、自分の頭で考えることを放棄してしまう危険性についても身につまされます。
世界平和への手っ取り早い手段として、人類抹殺プログラムのスイッチをあっさりと押してしまうシーンが衝撃的です。
最後の安全地帯へ
超高性能マシーンによって監視の目が至るところに張り巡らされた、22世紀の息苦しさが伝わってきました。
いつの間にやら街中に監視カメラが設置されて国家権力によって利用されている、21世紀に生きる現代人とも無関係ではありません。
安全神話と利便性向上を確実に手に入れるためには、自分たちのプライバシーでさえ譲り渡さなければならないのが歯がゆいです。
僅かに生き残った人類が身を寄せ合い、唯一無二の精神の自由が許された集落「オーロラ」が魅力に満ちあふれていました。
偶然にも旅の道連れとなり同じ目的地へと向かっていくアンドリューとカリアとの間に、知らず知らずのうちに芽生えていく極限状況下でのロマンスにも心温まります。
光り輝くのオーロラの地へ
ようやく見つけた生存者のグループが既に理性を失っていて、アンドリューたちに襲撃してくる場面が手に汗握ります。
野生化した人間たちの凶暴さと、限りなく人間に近づけたヒューマノイドの知性的な佇まいとのコントラストも効果的です。
終わりの見えない戦いと逃避行の果てに、アンドリューとカリアがたどり着いた安息の地と真実には心を揺さぶられました。
こんな人におすすめ
全編を通して鬱屈としたムードが漂っていただけに、遥か彼方の新天地へと旅立っていくクライマックスの解放感には格別です。
その一方では崩壊しつつある地球が新人類によって見捨てられていくような、一抹の寂しさも噛み締めてしまいました。
闇雲に科学技術を追及するのではなく、たまには立ち止まって人間にとって大事なものについて思いを巡らせるのも大切なのではないでしょうか。
ロボット工学を学んでいる理系の学生さんや、AI産業に携わっている社会人の皆さんは是非ともご覧になって下さい。
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