動画配信
キャスト・スタッフ
「東京ノワール」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「東京ノワール」は彩プロダクションによって、2018年に製作されているハードボイルドドラマになります。
新宿ケーズ・シネマにて14日間限定で先行レイトショーされた後に、2018年の8月4日から各地のミニシアターで公開されました。
極道組織における世襲制システムの全容を暴き出す「覇王 凶血の系譜」や、出世レースから脱落した刑事が人の道を踏み外していく「狂犬」など。
過激なテーマを取り上げて暴力的な描写に臆することなくチャレンジしていく、ヤマシタマサ監督がメガホンを取っています。
2012年10月改正施行された暴対法を綿密にリサーチして、ヤマシタ監督が82分のオリジナルシナリオを書き下ろしました。
2018年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では、オフシアター・コンペティション部門に正式出品されています。
1度は足を洗うことを決意した反社会的勢力の構成員が、予想外のトラブルへと巻き込まれていく衝動作です。
あらすじ
関東エリアに根城を置く金本組のナンバー2・鳴海は、20年もの間この世界で戦いに明け暮れて疲れ果てていました。
遂には引退を表明して堅気として生きることを選びましたが、最後の仕事として拳銃の密売を成功させなければなりません。
片桐と名乗る取引相手から受け渡し場所に指定されている、横浜市内の外れにある倉庫地帯へと単身乗り込んでいきます。
片桐の不自然な態度に疑問を抱いたために取り引きを中止しようとすると、その場に現れたのは鳴海の顔見知りの刑事・島袋です。
警察関係者の出現にパニックになった片桐と小競り合いを起こしている最中に、島袋の拳銃が暴発してしまいます。
不運にも腹部に被弾して呆気なく亡くなった片桐の遺体を見下ろしている鳴海に、島袋は意外な事実を打ち明けるのでした。
それぞれの流儀を貫く役者たち
若い時分にはさぞかし世間を騒がせたであろう主人公・鳴海役は、1974年生まれで鎌倉市出身の俳優さん・井上幸太郎です。
金本組若頭という仰々しい響きの肩書きと、厳つい顔つきに似合わないほどの繊細な内面を巧みに表現していました。
人間味あふれて義理堅い鳴海とは対照的に、極悪非道そのものな金本組組長の役を大鷹明良が怪演していきます。
熊切和嘉監督作「フリージア」では賄賂に弱い警護人、北野武監督「アウトレイジ 最終章」では日和見主義な会長付きの幹部。
憎たらしいキャラクターや情けない役回りでコアなファンに愛されていて、今作でもとことん汚れ役として徹していました。
強面でむさ苦しい男たちによって熱演熱が繰り広げられていく中でも、なっちゃん役の亜矢乃の存在感が際立っています。
出生作「ナチュラル・ウーマン2010」を彷彿とさせるような妖艶さと、その役名通りに清涼飲料水のような爽やかさを味わってください。
善と悪を越えたその先にあるものを見据える
単純明快な善悪二元論では捉えきることが出来ないほと、登場人物の造型とバックグラウンドが創り込まれていました。
極道を辞めたい極道者の葛藤は、夭逝の名優・金子正次による伝説的な映画「竜二」を思わせるものがありますね。
腕っぷしだけでは生きていけないのが今の時代における裏家業で、パソコンを使いこなしてデイトレードにまで手を出さなければなりません。
しっかりと個人資産を溜め込んで、引退後のために南の島のコンドミニアムまで購入しているほどの抜け目の無さです。
本来であれば取り締まる側の組織犯罪対策部が、いつの間にやら金本組と繋がっている点にも注目して見てください。
引退届けを提出した鳴海に対しても、当然のように手切れ金を要求する海田刑事のような恥知らすまで群がってきます。
何が正義で何が悪なのか激しく揺らいでいくストーリー展開と、複雑に絡み合っていく思惑に引き込まれるはずです。
シャッフルされたエピソードと覆面を被った登場人物たち
第2の人生をスタートさせるべく最後の舞台へと鳴海が上がってから、破滅的な結末へとたどり着くまでの1日で物語は構成されていました。
時おり1年以上前にまで時間が巻き戻されて、一見すると無関係とも思えるようなエピソードがフラッシュバックの如く挿入されていきます。
遊ぶ金欲しさに金本組の裏金を持ち去ってしまったために、とんでもない目に遭わされる不良高校生の龍一と翔太。
懲りない龍一が本屋さんで万引きしたドストエフスキーの「罪と罰」、龍一に心惹かれていく女子高校生のカズハ。
幸せいっぱいな若いふたりのカップルが、やがては知ることになる因縁浅からぬお互いの関係には驚かされることでしょう。
過去から現在へと少しずつ交錯していき、本編の15日前に遡ることによってようやく事件の全容が浮かび上がっていきます。
自らの身分を偽って接触してくる囮捜査官や、巧妙に張り巡らされた罠を鳴海の目線から見破ってみてください。
引退の花道を飾るために
かつては武闘派の組員としてその名を馳せた主人公・鳴海が、一気に老け込んだような後ろ姿がオープニングを飾ります。
タッグを組んで幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた、掛け替えのない相棒・山城の姿はもう傍らにはありません。
残っているのは拝金主義の権化のような親分と、気軽なアルバイト感覚で事務所に出入りする準構成員の若者たちばかりです。
時代の流れに取り残されてしまった不器用で昔かたぎな鳴海の、最後の落とし前を見届けてあげたくなりました。
簡単には精算がつかない人生
まっとうな暮らしを送ろうとしている鳴海に浴びせされる、周囲からの無理解な言葉や謂われのない差別が痛切です。
思い描いていたはずの引退後の生活設計が、僅かな計算ミスから音を立てて崩れ去っていきハラハラさせられました。
若かりし頃にずいぶんと無茶苦茶をしてきた、鳴海に代表されるような親世代の身勝手さについても考えさせられます。
龍一やカズハを始めとする新しく台頭してきた世代が、何の負い目もないのにツケを払わされる不条理さに憤りを覚えました。
傷を負ったはぐれものを癒す海と月
まるっきりバラバラになっていた時間の流れが少しずつ収斂していき、ひとつの答えを導き出していく終盤戦がスリリングです。
潔く犯した罪を認めて自らの手で償う者もいれば、この期に及んで悪あがきと言い逃れを繰り返す見苦しい者もいます。
全ての黒幕が身柄を拘束されて事件が幕を閉じていく中で、鳴海がたどり着いた静かな公園には癒されました。
深い傷を負った鳴海を包み込んでいくかのようなフェンス越しの海と、夜空に輝いている三日月が美しかったです。
こんな人におすすめ
遠方からの観光客や地元の買い物客で賑わう中華街から、怪しげな取り引きが行われる予定の埠頭の倉庫街まで。
全編を通して異国情緒をたっぷりと漂わせていて、「東京」というよりも「横浜ノワール」といったタイトルの方がしっくりきます。
低予算ムービーならではの手作り感剥き出しセットが味わい深く、現地ロケの映像と上手く組み合わさっていました。
無名の役者たちのアクションもキレッキレで、撮影期間僅か7日間という強行スケジュールを感じさせません。
普段は任侠映画に興味が涌いてこないであろう女性の皆さんや、若い世代の方たちも是非ともご覧になって下さい。
みんなのレビュー
「東京ノワール」を
布教しちゃってください!
おすすめのポイントを
自由に紹介してください!