動画配信
キャスト・スタッフ
「ガンジスに還る」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「ガンジスに還る」は2016年にインドで、レッド・ムービング・ピクチャーズによって製作されました。
本国での公開から2年後の2018年10月27日に、日本でも岩波ホールを封切り館にして全国ロードショーされています。
ヒマラヤの国際寄宿学校に入れられた少年が故郷・イングランドを目指す「The Road Home」や、過激派のシーク教徒が分離独立運動に加担していく「Kush」など。
社会の多様性から宗教間による対立までを取り上げている、シュバシシュ・ブティアニがメガホンを取っています。
第63回ボリウッド・フィルムフェア賞ではベストフィルム賞を含む部門にノミネートされた他、第73回ヴェネチア国際映画祭でもプレミアム上映されました。
ブティアニ監督と脚本家のアサド・フセインによって共同執筆されている、102分のオリジナルシナリオが映像化されています。
頑固一徹で風変わりな老人と彼に振り回され続けてきた息子が、ヒンドゥー教の聖地へと繰り出していくコメディドラマです。
あらすじ
長年教師として働いてきたダヤは定年退職を迎えて間も無く妻と死別して、いま現在は息子たちと同居する隠居の身です。
77歳を過ぎたある日の真夜中のこと、ダヤは恐ろしい悪夢にうなされて自らが余命いくばくも無いことを悟りました。
翌朝目を覚ました途端に家族を集めて、ヒンドゥー教の聖地・ヴァーラーナシーで人生を終えることを宣言します。
高齢で若干認知症の気配もあるダヤを心配する娘たちや息子の妻からは猛反発を受けますが、1度思い立ったたら引き下がりません。
仕方がないので息子のラジーヴがお供として付いていくことを申し出て、何くれとなく身の回りの世話をする羽目になります。
仕事ひと筋でまったくと言っていいほど家族を顧みずに生きてきたラジーヴは、親子ふたりっきりの旅を通して初めて父の素顔と向き合っていくことになるのでした。
自由な父と常識的な子の競演
ワーカホリック気味で自分のことで頭がいっぱいな主人公、ラジーヴ役を演じているのはアディル・フセインです。
ある日突然に「浮き世からの解脱」を言い出した父親に、俗世間の代表として困惑する様子をコミカルに表現していました。
今作での名演技が高く評価されたために、ナショナル・フィルム・アワードから審査員特別賞を贈られています。
ヤン・マーテルによって2001年に発表されたベストセラー小説を実写化した、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」。
パキスタンでのアメリカ人大学教授誘拐事件の顛末を描いた、ミーラー・ナイール監督の2012年作「ミッシング・ポイント」。
これまでにも世界各国の名監督や名俳優たちと共演を果たしているだけに、更なる国際色豊かな作品への出演が期待されますね。
ラジーヴの父・ダヤ役に扮している、ラリット・ベヘルとの息の合ったコンビネーションにも注目してみて下さい。
お迎えホテルにチェックイン
ありとあらゆる日常茶飯事を放り出したダヤとラジーヴがたどり着いたのは、ホテル・ムクティバワンでした。
この場所は自分から死を待ち望んでいる人たちが、インド国内各地から押し寄せてくる特殊な宿泊施設になっています。
国内外のヒンドゥー教徒の寄付によって運営されているためにリーズナブルな価格でチェックインすることが出来るようです。
ホテル内に用意されていたコミュニティで寛いでいたダヤが、ふとしたきっかけから心を通わせていくのは、ヴィムラという名前の高齢女性です。
夫を亡くして以来この地で18年もの長期間に及ぶ滞在を続けながらも、一向にお迎えが訪れる気配はありません。
ダヤを置いてホテルをチェックアウトしてしまったラジーヴを追いかけるのか、ヴィムラとふたりで最期の時を静かに過ごすのか。
俄かに運命的な二者択一を迫られることになったダヤが、迷い苦しみ抜いた末に下した決断を見届けて上げてください。
加速していく格差社会と変わらないガンジスの流れ
ラジーヴの勤め先が比較的に裕福なためにダヤは優雅なホテルライフを満喫出来ますが、一歩外に出ると厳しい現実が待っていました。
持ち合わせが足りない人たちはホテルの近くに設置された、簡素な火葬場で寝泊まりするという経済格差があります。
ITバブルによって飛躍的な経済成長を遂げているインドの、負の一面を目の当たりにしてしまいほろ苦いですね。
時おり火葬場に遺体が運び込まれてくるシーンが挿入されていますが、不思議と不吉なイメージや悲壮感は漂っていません。
火葬された後に遺された灰は、ヒンドゥー教によって女神と崇められている聖なるガンジス河へと流されていきます。
死後に遺灰を沐浴することによって生前に犯したあらゆる罪が洗われて、輪廻転生を遂げるというのが通説です。
目覚ましく変わっていくインドの中でも、古来から変わることのない穏やかさを湛えたガンジスの輝きに癒されることでしょう。
牛歩の祖父とせわしない子供と孫
画面中央に向かって1頭の巨大な牡牛がゆっくりと歩みを進めていくことで、物語は静かに幕を開けていきます。
ヒンドゥー教の高名な司祭によるお祝いの言葉に、敬虔な信者であるダヤが見た夢のお告げがオーバーラップしていき幻想的です。
牡牛と司祭の周りにはダヤばかりではなく、息子・ラジーヴと孫娘のスニタの姿もあり3世代が勢揃いしていて壮観でした。
神々の前に牛を捧げるという重々しい儀式が終わると、慌ただしく仕事に戻ってしまうラジーヴにはがっかりさせられます。
すっかり大人になったスニタも母親と車で出掛ける用事があるために、祖父を省みることなくその場を立ち去ってしまうのが寂しいです。
息苦しさから抜け出す
息苦しかった息子夫婦の家を飛び出して、久しぶりの自由気ままな生活を謳歌するダヤが微笑ましかったです。
身を寄せているのは「解脱の家」ことホテル・ムクティバワンで、幾つかのお約束を除けば堅苦しい制約はありません。
朝昼晩の食事はシンプルで健康的なメニューで統一されていて、洗濯や掃除など自分のことは自分で片付けます。
空いた時間を見つけてはのんびりとお茶を飲んだり、昼寝をしたりお喋りをしたりと心温まるものがありました。
水際に立つ親子
随所に映し出されていくホテルの敷地とガンジス河との境い目が混じり合った、ほとりの風景が印象深かったです。
この世界とあちら側の世界の両方に片足ずつ突っ込んでいる、ダヤの寄る辺のない不安感を象徴しているようでした。
かつては大好きだった父に憧れて詩人や文学者を目指していたという、ラジーヴの揺れ動く気持ちも伝わってきます。
陸地と河とがひとつに重なり合うかのように、父と息子とのわだかまりが解けていく瞬間には胸を打たれました。
こんな人におすすめ
例え肉体が滅びたとしても魂はこの世界を彷徨い続けていくことを信じている、ヒンズー教の枠を飛び越えて東洋的な思想へとたどり着いたクライマックスが胸に焼き付きました。
身近な人の死を忌み嫌うことなく、新たなる旅立ちと捉えて前に1歩踏み出していく人たちの後ろ姿からは勇気を貰えます。
無味乾燥な毎日の繰り返しにお疲れ気味な皆さまや、親子の関係性に悩んでいる方たちは是非とも見てください。
みんなのレビュー
「ガンジスに還る」を
布教しちゃってください!
おすすめのポイントを
自由に紹介してください!