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キャスト・スタッフ
「アイムクレイジー」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「アイムクレイジー」は、ザフール&スタッフとシンカ社によって合同製作されているヒューマンドラマです。
渋谷のシアター・イメージ・フォーラムを封切り館にして、2019年の8月24日から全国ロードショーされました。
地震に見舞われた故郷への思いを映画作りに込めた「いっちょんすかん」や、亡き妻のためにフランス人男性が熊本を放浪する「うつくしいひと サバ?」など。
数多くの映画作家の下で助監督としてキャリアを積んできた、工藤将亮監督が劇場長篇第1弾を発表デしています。
工藤監督と脚本家の加藤加藤結子によって共同で書き下ろされた、86分のオリジナルシナリオが映像化されました。
プチョン国際ファンタスティック映画祭2018に正式出品されていて、最優秀アジア映画賞にも輝いている作品です。
志半ばにして引退を決意したミュージシャンが、懸命に毎日を生きてきたシングルマザーと心を通わせていく感動作に仕上がっています。
あらすじ
佑樹は念願かなってミュージシャンとしてデビューしましたが、セールス至上主義のレコード会社と折り合いをつけることが出来ません。
間も無く仕事が減って活動休止へと追い込まれてしまい、最後に1本だけワンマンライブを開催することにしました。
ラストライブの日取りが決まったために、リハーサルと打ち合わせを兼ねて渋谷の会場へと下見に行くことにします。
大型CDショップの店頭に設置されている大型テレビから流れているのは、一時期同じバンドで活動していたミュージシャンのプロモーションビデオです。
かつてのメンバーたちの成功した姿に気を取られていた佑樹は、侵入してきた1台の車を避けることが出来ません。
運転していたのは作曲家の美智子で、この事故をきっかけにして佑樹は彼女の人生に深く関わっていくことになるのでした。
モラトリアムと優しき母を好演
音楽活動にもアルバイトにもいまいち身が入らない、主人公の佑樹を演じているのは古舘祐太郎です。
東京都世田谷区出身の1991年生まれの俳優で、人気のフリーアナウンサー・古舘伊知郎の息子さんとして有名ですね。
「まかない荘2」のようなホンワカとしたホームドラマから、菅原伸太郎監督作「いちごの唄」のような社会派作品まで幅広くこなしてきました。
今作でも他人に対して頑なに心を閉ざし続けているモラトリアム青年が、外の世界へと1歩踏み出していく様子を鮮やかに表現しています。
ハンディキャップを抱えた我が子に惜しみ無い愛情を注いでいく、ヒロインの美智子に扮しているのは桜井ユキです。
「リアル鬼ごっこ」や「リミット・オブ・スリーピング ビューティー」に代表されるような、数多くのミステリアスな役どころをこなしてきただけに本作品での等身大の演技には新鮮さがありますよ。
物語を盛り上げる歌声
主演を務めた古舘佑太郎は俳優業と平行して歌手としても活躍を続けているだけに、その歌唱力はお墨付きです。
高校在学当時に結成したのは「スラバーズ」で、2010年にはファーストアルバム「C’mon Dresden.」をリリースしました。
バンド時代はボーカリストでしたが、劇中では華麗なギターの演奏テクニックも披露しているので注目してください。
関西地区をキー・ステーションにするFM802では、ラジオパーソナリティーとしても才能を発揮していたこともあります。
本作への熱いメッセージを込めて作詞したメインテーマ、「LONELINESS BOY」をライブハウスで熱唱するシーンは必見です。
佑樹がアルバイトをする音楽喫茶の店長として、個性派のシンガーソングライター・曽我部恵一が登場します。
「青春狂走曲」や「サマー・ソルジャー」を始めとする、1990年代半ばのJ-POPに慣れ親しんだ世代には懐かしいのではないでしょうか。
ふたつの町と人生の分かれ道をウロウロ
映画の冒頭で佑樹が長らく疎遠にしていたバンド仲間の近況を知ることになる場所は、渋谷タワーレコードの前です。
「レコードの聖地」と呼ばれていた渋谷宇田川町も、近年では音楽ダウンロードの普及によって苦境に立たされている現状も垣間見えました。
売れないミュージシャンのお約束として、佑樹は渋谷駅から電車で4駅離れた下北沢のバイト先に出勤しなければなりません。
いつものように京王井の頭線を利用すれば5~6分程度でたどり着きますが、予想外のアクシデントとのために美智子が運転するブルーのセダンで向かうことになります。
何処かノスタルジックな雰囲気に満ち溢れたた喫茶店「MIR」でほっとひと息ついただけで、あっという間に渋谷に逆戻りです。
これ以降は1日の間に幾度となく渋谷ー下北沢間を行ったり来たりしますが、場面転換に合わせて引退を決めていた佑樹の心境が揺れ動いていくのを見逃さないで下さい。
交差点での衝撃的な出会い
街頭のオーロラビジョンから映し出されていく、生き生きとした若手歌手の新作映像がオープニングを飾ります。
偶然にもその真下を通り過ぎようとしているのは、今日を限りに音楽の世界を去っていくことを決めた主人公の佑樹です。
同じ目標を目指す音楽仲間として切磋琢磨しながらもまるっきり対極的な道のりを歩んでいくこととなった、ふたりの姿が一瞬だけ重なりました。
交差点のど真ん中で立ち止まってしまった佑樹と、これからも迷うことなく夢を追いかけるであろう元メンバーとのコントラストが切ないです。
その直後にスピード違反気味に突っ込んできた1台の乗用車のせいで、佑樹も否応なしに前進しなければなりません。
母子に挟まれ気ままなドライブ
人身事故に発展しそうな険悪なムードを言葉巧みに収めて、佑樹をドライブへと連れ出していく美智子の力業に感心させられました。
つらく重い過去を軽く受け流すようにサバサバとした、運転席でハンドルを握る美智子の横顔が清々しかったです。
広汎性発障害に悩まされながらもありのままにひた向きに生きている、美智子の息子・健吾の姿にも励まされます。
なし崩し的に健吾の子守りまで押し付けられながらも、まんざら嫌そうでもない佑樹の表情が微笑ましかったです。
出会いが音を紡ぎ出す
道中で佑樹たちが立ち寄ることになる、音楽マニアの店長が切り盛りしている昔懐かしい喫茶店には癒されました。
今日初めて出会ったはずの佑樹と美智子が、長年連れ添ったパートナーのようにセッションを繰り広げていきます。
言葉でコミュニケーションを取ることが苦手な健吾も、お気に入りのマラカスで飛び入り参加する姿が可愛らしかったです。
殺伐とした都会の中でお互いに無関心に生きてきた人たちの触れ合いから、新しい名曲が誕生する瞬間を鮮やかに捉えていました。
こんな人におすすめ
元夫への未練をスッパリと断ち切った美智子が、朝の光りに包まれたまま健吾とふたりで去っていくラストが圧巻です。
遠ざかっていく美智子の愛車を道端で見送るだけの佑樹は、相も変わらず自分のやりたいことが見つかりません。
不思議とその眼差しには一点の曇りもなく、ひとまわり成長を遂げたかのような佇まいが頼もしく感じられました。
いま話題のミュージシャンやテレビに出演する流行歌手よりも、ライブハウスに出演するアマチュア・バンドに愛着がある方は是非この映画を見て下さい。
みんなのレビュー
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