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キャスト・スタッフ
「HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ」をサクっと解説
ライター/ジョセフ
作品概要
「HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ」は2017年に、インペラティブエンターテインメントによって製作されました。
本国アメリカで2018に公開された後に日本でもハピネット社の配給によって、2019年の8月16日から全国ロードショーされています。
アフリカ系アメリカ人としての出自を抱えた少年の成長を3つの年代から見守る「ムーンライト」や、何者でもなかった女子高校生が一歩踏み出していく「レディ・バード」など。
ヒューマンドラマから学園ものまでを手掛けている、ニューヨークを拠点とする独立系映画製作スタジオ・A24のプロデュース作です。
イライジャ・バイナム監督が2013年に書き下ろした後長らくブラックリスト入りしていた、107分の脚本を映像化しました。
2017年3月にテキサス州オースティンで開催された、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭に正式出品されています。
父を亡くして孤独な日々を送っていた少年が、東海岸の保養地で甘く危険な3週間を体験する青春ストーリーです。
あらすじ
最愛の父親との死別を経験してからというもの、ダニエル・ミドルトンは喪失感から立ち直ることが出来ません。
夏休みに入っても家に引きこもりがちな息子を心配した母親は、マサチューセッツ州ケープコッドに住む妹にダニエルを預かってもらいます。
地元の息苦しさか解放されて気分を良くしたダニエルは、この町でも札つきのワルとして有名なハンター・ストロベリーに思い切って話かけました。
ハンターとはアルバイト先のコンビニで言葉を交わした時に知り合いますが、密かに違法な薬物の密売に手を染めている危険人物です。
そんなハンターにはマッケイラという名前の妹がいて、美しい容姿と穏やかな性格は兄とは似ても似つきません。
決して妹に近づいてはいけないとハンターからは脅されていましたが、ふたりは間も無く恋に落ちていくのでした。
熱い夏の若者たちを等身大で演じる
短くも鮮烈なひと夏を過ごすことになる、主人公のダニエル役をティモシー・シャラメが等身大で演じていきます。
貴重なたった1度きりの青春時代をもがき苦しむように駆け抜けていく少年の姿は、眩しいようでもあり痛々しくもありました。
ルカ・グァダニーノ監督作「君の名前で僕を呼んで」では、北イタリアの別荘で年上男性に友情以上の気持ちを抱く文学青年を。
スティーヴ・カレルと共演を果たした「ビューティフル・ボーイ」では、父と二人三脚で薬物依存性と戦う患者を。
これまでに定着してきた優等生タイプのイメージをひっくり返してしまうほどの、新たな役どころにチャレンジしているのも良いですね。
寄る辺のないダニエルを裏街道へと引き摺り込んでいく悪漢、ハンター・ストロベリー役に扮しているのはアレックス・ロウです。
破天荒な兄と突如として目の前に現れたダニエルとの板挟みに煩悶する、マッケイラ役のマイカ・モンローの好演も光っていました。
懐かしの1991
ちょっぴりレトロな遊園地に夜間だけライトアップされた観覧車、夜遅くにティーンエイジャーがたむろするファミレス。
バイナム監督自身が体験したであろう、1991年の世相や風俗がたっぷりと盛り込まれていて懐かしさが涌いてきます。
いま1番にホットな映画として、ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」が話題にのぼるシーンがありました。
コレクターの間ではVHSのビデオテープにダビングしたものが出回っていて、当然ながらDVDもブルーレイも一般家庭には普及していません。
カセットデッキに苦労して手に入れたテープを挿入して、ノイズだらけの画面で観賞するのも味わい深いですね。
見たい映画がある時にはミニシアターでもシネコンでもなく、ドライブインシアターに行くのが当時の流行りです。
旧き良き1991年代へのレクイエムとともに、いまの時代に大勢の人と映画館で感動を分かち合う素晴らしさを再確認させてくれるでしょう。
仄かなロマンスと細やかな冒険に映える背景
恋と冒険に満ちたストーリーの舞台に設定されている海辺の町の、緑豊かな自然に囲まれている美しさには目を奪われることでしょう。
大西洋へとアメリカ大陸の右腕を突き出したかのような、細長い独特の地形がバーンスタブル郡ケープコッドです。
毎年夏になると都会から観光客が押し寄せてきますが、本土からアクセスするには3つの橋を渡らなければなりません。
鉄道もない不便な環境からか、地元の人たちは高校を卒業する前に早々と自動車の運転免許を取得していました。
若者グループがそれぞれオンボロの中古車に乗り込んで集まってくるのも、この地方ならではの移動手段と距離感ですね。
終盤で追い詰められたダニエルが、如何にしてこの閉鎖的な町から脱出するのかハラハラさせられる一幕も用意されています。
どこにも居場所なし
学校ではスクールカーストの最下層で燻り続けて家庭にも居場所がない、ダニエルの鬱屈とした瞳から幕を開けていきます。
叔母を頼って縁もゆかりもないケープコッドにやって来たものの、観光客とも地元の人たちとも微妙な距離感があるのが焦れったいです。
ようやく心から打ち解けることが出来た、ハンター・ストロベリーの恐るべき正体には引き込まれていきました。
まだ見ぬ大人の世界へとあこがれを募らせていたダニエルには、あっという間に道を踏み外していくような危うさがあります。
ふたりの恋路の行方
ふとした瞬間からダニエルの目に輝きが宿り始めていき、見違えるように生き生きとしていく瞬間を鮮やかに捉えていました。
不良グループの車から降りてくるマッケイラ・ストロベリーの姿を、一目見ただけで心に焼き付けてしまう純情さが微笑ましいです。
パッと見ると清純派のマッケイラにも、周りの男たちを狂わせるほどの妖艶さとミステリアスな雰囲気を湛えています。
兄・ハンターの脅し文句や横やりにも屈することなく、交流を深めていくダニエルとマッケイラを応援したくなりました。
嵐の前の静けさ
はるか海の彼方から刻一刻と迫り来るハリケーンによって、静かなこの街にも俄に慌ただしさを増していきます。
いつの間にやらドラッグの違法取り引きに加担したまま、抜け出せなくなってしまったダニエルの焦燥感にも重なりました。
頑ななまでに反目を続けていたハンターとマッケイラの、過去の秘密に初めてダニエルが触れてしまう場面が痛切です。
次第に雨風が強まっていく中で、3人の命運を分けることになる非情な1発の銃弾が心に残りました。
こんな人におすすめ
嵐が通り過ぎた後の寂寞とした街の眺めと、またもや独りぼっちとなってしまったダニエルの後ろ姿が忘れられません。
モラトリアム期間が終わりを告げるとともに、否応なしに現実の世界へと足を踏み入れていかなければなならないのがほろ苦いです。
テキサス州アナリーンの小さな映画館に集まる少年少女たちにスポットライトを当てた、1971年作「ラスト・ショー」。
アイオワ州から一歩も外に出たことがない兄弟の絆をテーマにした、ラッセル・ハルストレム監督作「ギルパート・グレイプ」。
田舎町に生きる若者たちを描いたアメリカ映画に造詣が深い皆さまは、是非ともこの1本をご覧になってください。
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